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神鳴雷牙 |
07/05/04 21:41 |
振り下ろされてきた斬撃をかわし様、ガラ空きの胴を薙いだ。
「魔符出ろやオラー!」
最後のメタルスケルトンが断末魔を上げて倒れた。
「ぬう、あと一枚って時に出ないんだよな」
片膝をついて息を整える。流石に疲れた。だがこれで雑魚は全員片付けた。残るはサキュバスだけだ。
「後はサッキュンっすか・・・」
労いの言葉をかけてくれる人なんている訳がないのに期待してしまう。
「集まったのスケ魔符だけだな・・・」
「しゃあねえ、サッキュンひん剥いて帰るか」
いや、これも一応目的ではあったのだが。色欲よりも今は金を優先したい。脇差なんかも欲しいしな。
「サッキュンお持ち帰りとかできねえかな・・・って、何言ってんだ俺」
意識しない内にぼやいていたらしく、僕は慌てて口をつぐんだ。
「さて、そろそろ・・・。」
言いながら僕は、ダンジョン内で手に入れたボスルームキーを取り出した。ボスの部屋はこの先だ。
次の部屋に入り、これまでとは違う、大きな錠に鍵を差し込んだ。
「リベンジだぜ、サキュバス・・・。」
錠をはずし、扉を開けた。
サキュバスはすぐに見つけられた。これまでの小部屋とは比べ物にならないくらいの広い部屋の中央に、こちらに背を向け、歌を口ずさんでいる女がいた。
もし私が愛を捧げたら あなたは振り向いてくれますか?
もし住む世界が違っても 私を振り向いてくれますか?
闇は私を魔族へ誘(いざな)い 光はあなたを人へと誘(いざな)う
それでも私は あなたとの未来を信じて
イウェカの放つ慈愛の光に この思いを託したよ
同じ光があなたにも きっと注がれるはずだから
もし私が愛を求めたら あなたは迎えてくれますか?
もし私が消えてしまったら あなたは悲しんでくれますか?
僕は歌が終わるのを待って、静かにサキュバスに近づいた。一定の間合いを取って立ち止まる。どう考えても前に歌ってたのと違う気がするが気にしない。
サキュバスはゆっくりと僕を振り向いた。その顔にはすでに邪悪で妖艶な笑みがあった。一瞬、理性を無くしそうになるが慌ててこらえる。さすが俺、敵に対しても紳士だ。
「ああ、また来たのね。」
まるで馬鹿にするように言い放つ。僕も負けじと言い返す。
「今度は昨日のようにはいかない。お前を裸にひん剥いて逆さ吊りにしてやる。」
言いながら短剣を構える。ひん剥くためにはダメージ量を減らしてカウンターを何度もしなければ。なぜ素手じゃないのかは気にするな。
サキュバスはくっくっくを嫌らしげに笑った。
「あなた程度の腕前でできるかしら?もしできたらご褒美としてタップリとサービスしてあげるわよ。」
サキュバスも手にしていたバスタードソードを構える。
じりじりとお互いに間合いを詰めていく。手が汗ばんでくるのがわかった。
「褒美ねえ。そいじゃお持ち帰りさせて・・・もらおうかっ!」
先に踏み込んだのは僕だった。短剣を逆手に持ち、サキュバスの首をめがけて頭上から振り下ろす!
ガキッ。金属のぶつかり合う音。当然だが止められた。サッキュンは見下すような笑いをしつつ返す刃で僕のこめかみに斬りつける。今のが当ってたら、カウンターなんてする暇ないな。
僕はそれを、左で受け流す~ってのはナしにして、バックステップから両足で踏み込み、サキュバスの腹から胸を狙って斬り上げた。
紙一重。サキュバスは重心を移動しながら体を捻り、次の攻撃に備えるのが見えた。続く斬撃を繰り出そうとした僕は、しかしそこでサキュバスの左手を見て驚愕した。
サキュバスの左手が電気をまとっていた。いつの間にかライトニングボルトをチャージしていたのだ。
しまった、と思ったときには、既にサキュバスは僕に左手を突き出していた。
「ちょwwwいきなりかよwwwww」
ドガァァン!という豪快な音を共に、僕の体を電流が走りぬけ、僕は後ろへぶっ飛ばされた。ドサッ、背中から勢いよく落ちる。
「がはっ!」
痛みのあまり息ができない。手足がしびれる感覚。何とか上半身だけ起こすと、サキュバスは左手を突き出した姿勢のまま、顔に冷笑を浮かべていた。
「どうしたの?あたしを裸にひん剥いてやるんじゃなかったの?」
「くっ・・・とか言うと思ったかバーローwwwwこっちは雷属性装備で固めてんだぜwwww」
そんな軽口を叩くがやはりサキュバスは強い。僕は悲鳴を上げる体を叱咤して、ようやく立ち上がる。
「ホントに大丈夫なの~?い、今なら逃げ帰らせてあげてもいいんだからねっ!」
ツンデレとは余裕だなちくしょうめ。僕は苦笑いしながら返す。
「へっ、冗談言うんじゃねーよ」
やはり無闇に接近戦を仕掛けるのは避けたほうが良いか。そう判断した僕はファイアボルトのチャージに入った。
サキュバスもまたそれを見て、再びライトニングボルトをチャージし始めた。
勝負は一瞬。思考よりも先に腕が動く。魔力を集中させ、反発力の生成によって敵に飛ばす。ラサ先生バンザイだ。
魔力が激突し火花が散る。やはり魔族だな、FBでも対消滅か。僕はその光に一瞬目が眩む。
火花の奥からサキュバスが斬り込んできた。それを予期していた僕は、冷静にその斬撃をかわす。剣が激しく空を切る。その音はなぜだかとても美しかった。
おそらく必殺を期してのことだったのだろう、サキュバスの顔に動揺の色が走り、一瞬動きが止まった。ついにチャンスが来たか。
その一瞬を僕は見逃さなかった。気合を込めてサキュバスに打ち込んだ。
「大事な大事なひん剥きチャァァァァンスッッッ!!!」
「!!」
ザクッ。服の裂ける音。なぜか快感である。
僕はぶっ飛んでいったサキュバスを見た。よっしゃ、バッチリ当ったぜ!と思ったのだが。
「・・・・・・・・・・・へ?」
思わず、そんな間抜けな声が洩れる。
サキュバスが、下着姿になっていた。
何だ??頭の中が混乱する。まだ一回しか当ててないんすけど・・・?何、ネクソンからの嬉しいサービス?あれだけ肌が露出してりゃあ嫌でも分かる。
「いつつ、よくもやったわね~。」
顔をしかめながらサキュバスが立ち上がる。下着が黒い色なのと相まって、その動作の一つ一つがすごく色っぽい。自分の体温が上昇していくのがわかった。多分顔も真っ赤だろう。わざわざ短剣装備してきた意味ねえじゃん・・・
「あれ?」
自分の体の違和感に気づいたようだ。自分の体をあちこち見回して、最後に僕のほうを見た。その表情はポカンとしていた。
サキュバスの顔が紅潮していく。口がわなわなと震えだす。
「き、きゃああああぁぁぁぁぁあ~~~~~~~~!!!」
この大広間を震撼させるほどの悲鳴。両の手で体を隠すようにして、サキュバスは僕をすごい顔で睨んできた。どうやらネクソンは本人の許可無しにパッチを当てたらしい。その慌てた感じもなんとも・・・ネクソンもこういう所は分かってらっしゃる。
「あ、あんた、よくも、よくもあたしにこんなことを~~~!」
「いやいや、俺にとってもサプライズなんだがwwww」
「あんた絶対知っててやったでしょう!?ほら、服返しなさいよ!」
「え?」
僕が手に持っているのはサッキュンの服。なるほど、ボスがお持ち帰りできるのはまずいから、服を持って帰って妄想してろって事か?
「あ~~~~~~・・・・・・・・・・。」
僕は言葉に詰まる。しかし、ふと思い出し、僕は意地悪に笑いながら言ってやった。
「最初に裸にひん剥いてやるって言ったよな?下着が残ったのは残念だったな。」
もちろん本気だったのだが、上手く現実になったので、僕は笑いを堪え切れなかった。
「くくくく、あっはっはっは!ざまぁ~ねえの~wwwwwwwまったくネクソン万歳だわこりゃwwwww」
いかん、面白すぎて涙まで出てきた。
「・・・・・・・・・・・・・・・。」
「さーて、この服で何しようかな~wwwwって、ぬあにをっ!?」
サキュバスの体の周りの空気が、バチバチと電気をまとっていた。そしてその電気は徐々に右の手の平に集中しているようだった。やべ、本気モードっすか。
「き。貴様~~~~~~~!」
サキュバスは、まさに修羅のような形相でライトニングボルトをチャージしていた。
「あ、やば・・・。」
思わず声が洩れる。サキュバスの右手の電気が球状になって渦巻いている。その大きさは、今までのものの数倍はあった。
「バ、バカ~~~~!!!」
ツンデレ風の怒号と共にライトニングボルトが放たれる。でもこれもいいかも知れない・・・
「うわっ!」
俺は雷属性装備にも関らずまともに攻撃を受ける。
ライトニングボルトがアリッシュの表面を走り火花を散らせる。ものすごい衝撃が装甲の薄い部分を通して伝わってきた。足を踏ん張り、必死に耐える。たぶん周りから見たら骨見えてるんじゃね?もしかしたらスケルトンってこうしてできてるのかな・・・とかくだらない事を思ってる場合じゃない。
突然、目前の電気の球が弾けて霧散した。衝撃で風が体を掠めていった。やった、ぎりぎりデッドリーだな。
「あ・・・・・。」
サキュバスの間の抜けた声が聞こえた。僕は何だと思ったが、すぐにハッとなった。
俺ががっちり握っていたはずのサキュバスの服が真っ黒焦げになっていた。
「・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
気まずい沈黙が降りる。僕が手を広げると、炭と化した服はボロボロと崩れて灰となった。
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・お、」
「お?」
「お、覚えてなさいよ~~~!!」
サキュバスはそれだけ叫ぶと、黒い霧の中に包まれ、消えた。
「・・・・・・・・・・・・・。」
な、何だったんだ?しばらくの間、僕は呆然としていた。
「ま、まあ一応、サキュバスひん剥けたし・・・いい、のか?」
とりあえず何とかなった訳であるが、どうにも後味が悪いもんである。一応公式でアップデート情報のチェック・・・サッキュンの服についての項目は1つもないな。となるとあれはバグなのか?やっべ、SS撮り忘れた。
あいにくと宝箱はライフ50と金だけだった。あれだけ頑張ったのにな・・・収穫はスケ魔符だけか。しゃあないか。俺は苦笑しながらラビダンジョンを後にした。
(終わり)