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マジルグ |
06/08/19 00:04 |
ラビダンジョンに棲むサキュバスを倒して欲しい。
白フクロウによって届けられた依頼が手元に届くと、
私は、さっそくラビダンジョンの奥へと向かった。
しかし、奥地に潜むサキュバスの元へたどり着くまでに、
数多くの強力なモンスターによって、私は、ぼろぼろになっていた。
何とかボスルームキーを手に入れたものの、
しかしこのまま突撃してもやられるだけではないだろうか。
今は、心の準備をしよう…。
そう思い、私は一つ手前の部屋で3日間休む事にした。
ナオちゃんからのサポートをいっぱい受けるためである。
しかし、その考えは甘かった。
何と、サキュバスに対して、私の剣がほとんど歯がたたないのだ!
しかも覚えたばかりのアイスボルトも全く効かない。
ある程度ダメージを与えては倒され、ナオちゃんに助けてもらい、
そしてまたサキュバスに突っ込んでいき…
ナオちゃんからのサポートも受けられなくなった私は、結果として、
サキュバスに、たいしたダメージを与えられないまま倒されてしまった。
今の私では、どうしてもサキュバスを倒すことはできない。
以前対峙して見事に返り討ちにされてしまった
巨大黒オオカミと同じパターンではないか。
もう少し力をつけてから出直そう。やむを得ず、
私はキャンプ地のダンバートンへと戻ることにした。
そしてダンバートンの大通りへと戻り、ほっとしたのもつかの間。
頭が妙に軽いなと思い、ふと頭に手をやると、
私の大切なイビルダイングクラウンが無いのだ!
このイビルダイングクラウンは、
数日前、私がやっとのことで貯めた1万5千Goldで、
とある個人商店から購入したもの。
店で売られている同じ性能のどのヘルメットよりも安く、
さらに私の顔を隠すことはない、お気に入りのヘルメットなのだ。
どうやら、サキュバスにやられてしまったときに落としてしまったらしい。
しかし、イビルダイングクラウンを取り返すために今からダンジョンに入っても、
同じ部屋に入ることは、まずないだろう。
つまり、自力で取り返すのは不可能だ。
そのかわり、ここには素晴らしい施設がある。官庁だ。
官庁には、どのようなシステムになっているのかは知らないが、
各地で紛失した様々な落とし物を預かってくれているという。
私の紛失したイビルダイングクラウンも、おそらく官庁に届いているだろう。
私は、すぐさま官庁へ向かった。
「すいませ~ん、先ほどイビルダイングクラウンを無くしたんだけど、
届いてますか?」
すると、応対してくれたエヴァンさんは、
「すぺしねふさんですね? ちょうど今届いたところです」
と、建物の奥に一旦戻ると、彼女は、
黒いイビルダイングクラウンを私に差し出してくれた。
この色合いといい、痛み具合といい、エンチャントといい、
まぎれもなく私のイビルダイングクラウンだ。
「ありがとうございます、間違いなくこれです!」
お礼を何度も言い、私のイビルダイングクラウンを手にしようとしたそのとき、
エヴァンさんは、すっと私のイビルダイングクラウンを背後に隠した。
「それは良かったです。それでは手数料に、2万5千Goldいただきます」
…………。
「は?」
「ですから、手数料は2万5千Goldです」
「ちょ…ちょっと待ってくださいよ!ケタを1つ間違えていませんか?」
あわてた私を尻目に、エヴァンさんは繰り返す。
「2万5千Goldです」
「あ、いや…そりゃ、今すぐお金は払えますよ。
財布の中に、今なら3万Goldありますから。
でもね、このお金は、次にバッグを買おうと思って、
必死になって貯めたお金なんですよ!
1日に4つもアルバイトを掛け持ちしたり、
いろんな魔符を10枚ずつ集めたり、
知り合った仲間でコヨーテ100匹いじめたりして。
そうやって貯めたお金でバッグを買って個人商店開いて、
私が作った料理を色々と並べて販売しようと思っていたんです。
あともう少しでバッグが買えるんですよ!
それに、そのヘルメットは、先日1万5千Goldで買ったばかりなんです!
それなのに、そんな大金をすぐに払えなんて!」
しかし、エヴァンさんは、顔色一つ買えずに、私にこう繰り返した。
「2万5千Goldです」
そうして私は、泣く泣く、
それまで貯めていたお金のほとんどを使い果たして、
私のイビルダイングクラウンを取り戻した。
もちろん、バッグを買うのは、まだまだ先のことになるだろう。
しかし、それよりも、まずは、強くならなければならない。
そう、イビルダイングクラウンを取り戻した
手数料分の復讐をサキュバスにするために…。
P.S
これだからお役所仕事は嫌いなんだよ。
少しくらい手数料まけてくれたっていいじゃないか。
後日談
久しぶりに露店回りをしたら、
金色のイビルダイングクラウンが2万5千Goldで販売されていたりする。