マビノギ

ダスキ

09/04/08 02:51

人間というものは興味が沸いたものに対し、金銭的にも時間的にも消費することを厭わなくなる生き物だとＮ○Ｋでナントカ大学教授が言っていた気がする。そんなことは誰でも感覚で理解しているのに、それを言語化して発表するだけで『頭の良い偉い人』にカテゴリされるのだから、認識力とは凄いものだと思う。ニュートンしかり。
話が全然違う方向にいってしまった。戻そう。いやまだ始まってすらないんだけども。

前記した通り、カウンターと防御を使い分けた戦法を得た俺は有頂天になっていた。
「俺に敵うヤツはいねえ」状態のジャイアンみたいなものだっただろう。案外彼は負けることが多かった気もするが、それはまぁ、いい。

ともかく俺はマビノギの世界を堪能していた。赤クモは敵ではなくなり、灰色オオカミも落ち着いて倒せるようになっていた。アルビダンジョンもクリアできるようになり、宝箱の金貨やミミック魔符の報酬でショートソードを買っては喜んでいた。バスターソードにするかで迷ったが、アレは高かったので断念したのである。
そして余ったお金で気まぐれに買ったフェニックスの羽。死んだ時これがあれば安心じゃないか！という斬新な発想で購入したのだが、よく考えたらこれは一人では使えないことに買ってから気付き
「まぁ誰かが死んでたら人助けになるしな！」
というポジティブな思考で気にしないことにした。人生、上がり調子のときは何でもポジティブで物事を考えられるのは生きるうえでとても便利なことだと思う。

ともあれ赤クモに復讐するのも飽き、オオカミを相手にしても経験値の入りが鈍くなり、白クモ魔符もミミック魔符も集めるのが面倒になってきたころ。俺はＭＧで飛ばされたあの街のことを思い出していた。イメンマハである。そしてマハの帰り道に通り過ぎたダンバードンのことも思い出していた。

行ってみよう。
俺はそう決心すると、マビを始めて以来ずっとお世話になっていたティルコネイルを後にした。若干名残惜しさは感じたが
「まぁまた戻ってくるからいいか」
なんてことを思っていた。が、そう思うヤツに限り故郷へは帰らないものである。
さて、ティルコを飛び出た俺は伐採キャンプへ立ち寄った。特に用事はなかったのだが、前回通りかかった際には精神的余裕もなく、あまり探索もしていなかったので、じっくりと探検してみようと思ったのだ。
ムサいオッサンを華麗にスルーし、森の中に入って初めてクマを見かけて躊躇なく逃げ帰ったのを覚えている。いま思い返してみても、我ながら素晴らしい危機管理能力だ。
特に目ぼしいモノも無さそうだと判断した俺は、再びダンバへと歩き始めた。無課金で馬もなかった俺は自分の足で歩くしかないのである。
道中に黒い鎧を着た集団とすれ違い「うお！鎧かっけえ！！ｗｗ」と思い「それなんて装備ですか？」と訊ねようかなんて思ったりもしたが、ここは俺の社交能力の低さが幸いした。彼等とは再びこの地で再会するハメになるのだが、それはまた別の話。

問題もなくダンバへと到着した俺は、まず広場の市場に驚いた。
苦労して買ったショートソードが、なんと市場では500Ｇ程度で売られていたのだ。その他にもバッソといいグラといい……当時、俺の最高の憧れであったデカい剣（２ｈｓやモアのことだが、当時はこう名称していた）まで1万前後で売られている始末。
これが俺の情熱に火をつけたのは言うまでもない。
何か金になるモノはないのか？そう思った俺は金策を立てるため、今までの情報を整理してみることにした。

一番最初に思いついたのは『ミミックの魔符』方法。これは比較的安全かつ高利益なので妥当だろう。しかし、ドロップ率も高くない上にアルビではミミックさえ出ない可能性がある。情熱というのは儚く短いものだ。これでは時間が足りずに俺が飽きる危険性もある。

二番目に思いついたのが『白クモの魔符』方法。これはドロップ率は中々だが報酬が安く、更に悪いことに、最近になり墓場には俺と同じような初心者がちらほら出現し始め、獲物を取り合い気まずい空気に成りかねない。相変わらずタイピングの遅い俺はチャットに突入したら意思疎通が出来ないので、最悪のケースを想定してこれも廃案にした。

三番目に思いついたのは『新しい方法を探す』。思いついてないじゃないかというツッコミはこの際ナシの方向で処理することにする。どんな名案も発明も、試行錯誤することから始まるのだ。
そこで俺は三十分ぶりにティルコネイルへと舞い戻った。前振りなんておかまいなしである。
目的はキアダンジョン。これもまた、往来の会話で入手した情報だ。
「キアはうまいよ！」
と、見知らぬ人が言っていたのを盗み聞きしたので、そこまで絶賛するのであれば報酬その他諸々も相当なものだろうと心を躍らせていた。よくよく思い返してみれば、「キア上はうまいよ！」と言っていたかもしれない。まぁ気にしない。男は細かいことを気にしていたら生きてはいけない。そう気にしない。

キアロビーにたどり着いた俺は、早速アイテムを祭壇に落とし、ダンジョン内へと進入した。場所的にも雰囲気的にもアルビより1ランク上くらいのダンジョンだろうと予想していた俺は
「まぁ俺には鉄壁の防御と無敵のカウンターがあるしな！！ｗｗ」
と余裕綽々であった。予断だが、この頃に往来の会話の様子で「ｗ」＝「笑」の略であることを知った。

さて、とりあえずショートソード片手に進んだ俺は、ここでゴブリンと対峙することになる。17歳でゲームを開始した俺のキャラ身長は大きい。それに対し、比較的ゴブリンは小さく貧弱に見えた。
勝てる。
そう確信した俺は躊躇なく一匹目のゴブリンへと斬りかかった。１モーションでは倒すことは出来ない俺は、防御を発動し相手の攻撃を防ぐ→反撃の手段を常用していた。防御すれば大抵ダメージは１になるし、何よりお手軽である。
防御戦法を繰り返していた俺は、難なく一部屋目をクリアすることに成功した。
「やっべｗｗ楽勝じゃね？ｗｗｗ」
ＰＣの前で一人喜ぶ。テンションが高くなると、ついつい独り言をしてしまうものである。

テンション高めのまま、中盤あたりまで来たときだろうか。相変わらず余裕の表情で宝箱を開けた俺は、そこで新たな敵と対峙することとなった。
「弓持ってるのか？」
そう、ゴブリンとゴブリンアーチャーから成る混合部隊の登場である。初見のアーチャーを見た感想は、「コイツ雑魚のくせに弓なんて持ってやがる」というものであった。まぁゴブリンは敵ではないし、さっさと片付けてしまおうと考え、手始めに近くにいたアーチャーへと殴りかかった俺は、キアの本当の恐ろしさを知るハメになるのだった。