マビノギ

メルーメルー

08/12/01 11:53

表現するということは、
日常のいろいろな場面で行われます。
でも表現したものを発表するまでが、
こんなに険しいものだったなんて･･････。


どんな職業であれ、どれほどの年齢であっても、生きるすべての人々は皆、表現者である。
「表現」という言葉とは縁遠い生活を送っていても、ふいに「表現」の方から襲って来るのであり、その時ほとんどの人は、それを「発表」したいという感覚になる。
例えば、湯呑みの中で茶柱が立つ。茶の中で揺れる一片の茶柱の表現に何かしらを想い、次には近隣の者にそれを見せたくなる。指に刺さった棘、みかんの一房についた、赤ちゃんのみかんを発見した時、めずらしい形の枝毛、何の発展性も意味もないと知ってはいても、人々はそれを発表せずにはおれない。
それは、やはり人々が皆「表現者」であるからだ。

漫画を読みながらクソをしていた。
いつのまにかクソをしながら他の事も同時に出来るような技術を人は得ている。しかし、それはまだ「表現」ではない。なぜなら、クソをしているだけで、それまで表現だと言いだすとバカだと思われるのである。
ところが、表現は突然やってくる。
どうにもクソが切れないなと覗き込んだ時、そのクソが水面に到着しているにもかかわらず、まだアナルにも根を張っているのだ。
クソが「表現」を始めた。長いクソだ。長いクソが出る時、どんな習慣の人種でも思うことはひとつだ。

"切らないようにしてみよう"

アナルの力を抜き、腰をやや前方に移動させながら、クソと人間の表現するための共同作業が始まる。
やけに長いまっすぐな一本グソ。財津和夫の曲名みたいだが、長い一本グソはなぜだかいいもんである。
その存在に微笑みとわずかな誇りがある。先日出たその長い一本グソは便器のノドに突き刺さり、その先端は水面から頭をもたげた。推定30センチはあろうかという立派な代物だった。
もう、この瞬間、オレの心はこの作品を発表することで頭が一杯だった。また、今までもそうしてきた。
同居人のモヒカンの男と一緒に住んでいた時も、いいデザインのクソが出るたびに、彼に見せるため、そっとフタを閉じ、バイトから奴が帰って来るのを心待ちにした。なかなか帰って来ず、また用を足したくなった時は近所のパチンコ屋までわざわざ出向いた。何も知らずに便所に行き、奴の悲鳴を聞く喜び。しかし、モヒカンのようにデザインを心得た男は便所から出て来ても非難や苦情など言わない。そこに、それが残された意味、その物体の素晴らしさに注目できる男。
「すごいね!!」
ホメられると照れくさいが、人もクソもホメられることで伸びる。

そんなオレの人生の中でも、先日の出物は突出していた。長さ、直線度、ヒビ割れの少なさ、どれを取っても、メトロポリタン美術館級の作品であり自信の持てる表現だった。
ところが、である。どの場面でも共通して、クソをした後はケツも拭くのである。ケツを拭いた紙をどの場所にレイアウトして、作品の邪魔をしないか。これが問題だ。
ならば、いっそのことケツを拭かなければいい。そうはいかないのだ。
いくらそれが激レアなモノでもクソはクソであり、クソを人に見せるためにクソをつけて歩くというのは表現者である以前に、人としてのルールに問題がある。
拭いた紙を水に濡れぬよう、細心の注意をはらって隅にやる。しかし、長グソというモノは元来、粘りのある成分によって形成されるからこそその尺が出る。カチグソのように切れやすく、ゲリベンのように･･････、もういい。説明はもういらんだろう。書いてる本人が気持ち悪くなってきた。
とにかく、何度拭いても、スティック状の靴ズミに紙をこすりつけているような塩梅で、どうにも拭ききれないのである。便器に横たわる一本グソの周りに白いケツ拭き紙が並べられ、まるで棺桶の中の遺体のように飾りつけてあるようだ。だが、何度拭いても拭き切れることはなく、いっそのこと紙を燃やしてしまおうかとも思ったが、断腸の想いで、ついに、一本グソの上に紙を捨ててしまった。
さよなら･･････。発表されることのなかった天才よ。流れてゆきながらも彼はドルフィンのように立ち上がり表現することを忘れなかった。

直後、職場の人々に、彼のすごさ、出会いと別れを熱弁したが、やはり、実物を知らぬ者にとってはツチノコの話と同じ。ローレスポンス。
一本のクソ。その表現と発表。くだらないと思う人もいるかもしれないが、それを発表することをやめてはいけない。
人間、表現することをやめたら、それはもう死んでいるのと同じことだ。