自由掲示板

月を使った人の殺し方(小説)
木刀狼 08/04/17 19:28

諸君、私は木刀が大好きだ。
新掲示板でも相変わらずこの台詞で始まる。
ではスタート。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
なんて幼稚なんだ。なんて愚かなんだ。
そう思いながら、私は。
 
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
混み合う人の群れ。商業都市ダンバートンの空は、冷えてきた気候のせいか青ざめてるようにも見えた。
一昨日はすごかった。もう秋と思っていたのだが、その灼熱の日差したるやあの雑貨屋の鉄仮面オヤジも倒れるのではないかと思ったほどだ。
今は比較的涼しく、人々の表情も穏やかで、ついでに私の心は冷ややかなものだった。
「まったくよぉ、女と付き合ってんのにその服のセンスは直らないもんなのか?」
いやでも右耳に飛び込む罵詈雑言の類。
よほど緑のローブが気に入らないのか、記憶力が弱いのか、男は3回目の同じ台詞を吐いて黙った。
金髪に白金の鎧を着込んだツリ目の騎士は、ガルツといった。
 
「悪いか」
「悪くはない、けど流行りでもないぜ」
「お前のその鎧は、流行りか」
「俺様のこれは騎士の魂ってやつだ、混同するな」
そういって奴は頭の後ろに手を組んで、空を見上げた。
「俺は、お前とは違うんだよ」
言われた私は押し黙った。
眼鏡に映る、私の髪と同じ紺の空も、とくに見ているわけではなかった。
 
静かに時が過ぎていく感覚。
私はこれが好きだ。
何も気にせず、気に留めず、ただただ風が髪を揺らし、服を押し、そして留まらず時と流れていく。
だから、私はこの心を揺るがすものが嫌いだ。
確かあの時だった。
あいつに会ったのは。
 
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
毎日深夜0時、ラディカに向かって3回祈る。
焦燥感が胸を焼く。早く叶ってくれと叫ぶ。
 
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
紅葉がはらはらと舞い落ち、そして地面に落ちる。
大体が足で踏まれ、硬いカーペットになって、そして肥料として朽ち果てるのが普通だというのに、ここは違った。
綺麗な曲線にゆがんだ葉も、全く踏まれた形跡がない。
そして、その葉をすべて避けてきたのだろうか。
誰かがおよそ半日分ほどの落葉に覆われたまま、道にうずくまっていたのだ。
人も、もしかすると獣も通らぬティルコネイルの名も無き林道。
そこに人が二人いるという状況に、私は恥ずかしいながらも、しかも勝手に運命というのを感じてしまったのだ。
そっと、近づいてみることにした。枯葉を避けて、彼女の元へ進んだ。
ほぼ全域を枯葉が覆う赤土の上を、枯葉を避けて進むのはなかなかに困難だった。
つまさきに全神経を使い、赤、黄、茶の枯葉が舞い落ちる世界で、しばし無言で進んだ。
次なる落ち葉達の空隙を見つけ、そこに足を運んだ瞬間、そこに黄色のもみじが滑り込んできた。
あっ、と思い体ごと足をそらすも、自らの勢いを支えきれず、私は仰向けに地面に突っ伏す。
「あっ」
小さくもれる、澄んだ声。
顔を上げ、声の主を探した。
すると、うずくまっていた彼女の体から、枯葉が滑り落ちた。
白にピンクのラインを入れたニット帽。
私は照れ隠しに口を歪め、苦笑いして見せた。
「転んだ」
彼女はこっちをじっと見ると、落ち葉より鮮やかな茶色の目を細め、桜のような唇で微笑んだ。
無邪気な、楽しそうな笑顔。
彼女の全身に通る、黒い線。
私は割れた眼鏡越しに、笑いかける彼女を見つめていた。
運命ではなかった。
『宿命』として彼女に出会ってしまった私は、その女性に恋をした。
 
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
私の邪魔をするものを。
私の平穏を乱すものを。
 
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
その日から、私と彼女は仲良くなった。
風はどんどんと冷たくなり、いよいよ冬か、と誰もが感じていただろう。
だが私は違った。
読書という趣味が合っていたことがあってか、私はよく彼女と一緒にいた。
隣で本を読むあの子、笑いかけるあの子、白にピンクの線が入ったニット帽をかぶるあの子。
私の心は、あの子の桜のような笑顔で暖かかった。まさに春だった。
ときどきガルツに見つかり、邪魔をされている時でさえ幸せだった。
そして、息も白い冬、雪は分厚く積もり、私は紺のマフラーに黒のローブといった格好で雪の中を歩いた。
「待ったかい」
「今来たところ」
寒さゆえか頬を赤くした彼女は、それでもやはり桜のような笑顔になった。
いつもの林道。いつもよりざわざわと、枝のこすれる音が大きい。
「風が強いね」
「そうだね」
今となってはどちらが言い出したのかもわからない。
そんなありきたりな会話をしていて、そして私は。
今思い出すだけでも心を焼き尽くすような、してはいけない質問をしてしまったのだ。
「そういえば、家族は何人?」
「……3人」
ふいに、彼女の表情が曇った。
「殺されたんだ。センマイ平原で、白金の鎧を着た男に」
その瞬間。
私の心臓は、まるで暴走を始めたかのように強く胸を打った。
「二人とも、戦争で、味方に斬られたの」
白金の鎧。センマイ平原。
ああ、なんということだ。
ああ、ああ!
私には、そんなことをした人間が一人しか思いつかなかった。
そして、それは絶対的な確信であった。
「……どうしたの?」
風が耳を塞ぎ、低い轟音が鼓膜に響いた。
あの日から、私の心は今なお続く冬になった。
 
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
永遠に続く絶望。
永久と思われる祈り。
 
殺してくれ
殺してくれ
殺してくれ
 
私は今日もラディカに祈った。
涙を流し、声にならない声で月に叫んだ。
このままでは私は狂ってしまいそうだ。月よ、願いを叶えてくれ!
 
そのとき、当人ですら信じられない事が起こった。
ぼんやりとしたラディカの月明かりが、粒子状になって私の目の前に渦巻き始めたのだ。
そして、おお、それは青白い光を放ちながら徐々に人型を成し、そして優美な女性へと変貌したではないか!
表情のない顔、肌は薄い青の光を放ち、どこか冷たく、神々しい印象を与える。
「祈るものよ、救いの手を差し伸べましょう」
ラディカの使いは私の目をじっと見ると、ゆったりとそう言った。
「ああ、なんと……まるで奇跡のようです」
私の目から涙がこぼれているのだろう。
私の心の中は悲願を叶える事でいっぱいで、もはや自分の外面上のことなどわからなかった。
「ええ、叶えましょう。私の力が及べば」
私は、まっすぐ目を見つめて、この時のために日頃思い続けた願いを唱えた。
「あいつを、あいつを消してください! この世から!」
「……わかりました、それがあなたの望みなのですね」
彼女は少し黙って、こう続けた。
「……ですがその願いは、私の叶えうる範囲の願いではありません。
ですのでこういうのはどうでしょう?
あなたからその人の記憶、そのひとからあなたの記憶を消し、あなたとそのひととの関係を知るものから
あなたとそのひとの関係の記憶を消す。
これならあなたはその人を忘れ、苦しむこともありません。これからずっと安らかにいられるのです」
「ああ、それで十分です。お願いします」
「そうですか、では、ここでお眠りなさい。目が覚めたときには、願いは叶えられます」
「本当に、本当にありがとうございます……」
私は泣いて感謝した。
やっと。やっとこの地獄から開放されるのだ。
やっと忘れることができるのだ。
私はすべてから逃げるため、眠りについた。
ラディカの使いは、すでに消えていた。
 
罪悪感はあった。
だが、それ以上の狂気が私を包み、責めたてていた。
白金の鎧。戦争で味方を殺した。
昨日ダンバートンで喋っていたではないか。
思い当たる人間は一人しかいなかった。
 
私だ。
 
私は捨てられた孤児として幼少時代を過ごし、そして15歳になったころに騎士になった。
入隊した後、さほど間を置くことなくセンマイ平原で戦争が起こった。
相手は魔族。
魔法が放たれ、光が飛び散り、血しぶきが大地を染めた。
敵は死に、仲間も死んだ。
そんな中、私は一人の魔族を追い詰めた。
かなりの功績をあげていた者のみ着ることのできる、白金の鎧は雨に濡れていた。
まだ幼いコボルドに向かって長剣を振り上げ、今にも振り下ろそうとしたその時。
「待って!」
二人の人間が、剣の前に立ちはだかった。
その二人はまだ新兵で、唯一、子を持つ夫婦だという話だった。
「何をする。邪魔だてするなら、味方といえど容赦はしないぞ」
「まだ子供ではありませんか、こんなことをするなど酷すぎます」
「私たちも子を持つ身。見逃すわけにはいきません」
私は苛立った。
酷い、だと? どうせこいつも魔族には違いないのだ。
捨て子の私に何を求めるのだ。優しさなど知らん。戦場での情など何の役に立つ。
大切にされた人間にはわかるまい、わかるまい!
私の心の中で、黒い竜巻が暴れた。
「…まれ……っ!」
「あなたには愛というものがないのですか!?」
「だまれ!!!」
私は長剣で女の頭から足まで一気に斬り、下から男の下腹部を貫いて、右横に裂いた。
噴出す同族の血の雨を浴びながら、私は怒りに任せてコボルドに刀身を叩きつけた。
前線基地に戻って、私は報告を済ませた。
魔族の討伐数と、『魔族に肩入れする者を斬殺した』の文章を書き終えたときに。
戦争終結の報が届いた。
戦争が終わった翌日、疲れ果てた体で起き上がったとき、私は後悔した。
誰を守るために私は、同族を殺したのだ。
同じ人間を守るためではなかったのか?
私は散々自らを責め、翌日には騎士をやめた。
そしてそれから7年がたち、やっとそのことも忘れられそうだというのに。
なぜ、なぜ私は彼女と会ってしまったのだ!
事実を知った以上、彼女と一緒に笑っていられない。
無邪気な彼女の笑みが、彼女の両親を殺した犯人に向けられることが。
そしてそれを見て、いつまでもこうしていたいと思う自分が恐怖だった。
いっそ自分の存在を消してしまいたかった。
だが、それでも私は。
いったいどこで捻じ曲がってしまったのだろう。
私は彼女を消してくれるよう頼んだ。
あの目が、笑みが、小さな体も、全てが愛おしくて、そして憎かった。
消えてほしかったのだ。
私を元の静かに時が過ぎていく世界へ帰してほしかったのだ。
あなたが消えてくれれば、私はまた静かに、愛を知らずに済むのだ。
私は苦しまなかったのだ。
 
そして22歳の冬の終わり、それが叶ったのだ。
 
閉じたまぶた越しに、光が差しているのがわかった。
目が覚めると、そこはセンマイ平原の草の上。
青臭い緑の芝生から体を起こすと、私は静かに立ち上がって、ぐっとのびをした。
そして、いつも通りの生活へ戻った。
相変わらず露天の多い、ここはダンバートン。
朝方はわりかし静かで、鳥たちのさえずりが心を洗う。
「あーあ、暇だなぁおい」
もしこれが鳥の声だったら即座に叩き落としてやりたい。
隣に金髪の騎士が座っていた。
「軍はすることがないのか」
「ないよ。警備とかもただ突っ立ってるだけだ」
「そうか」
私は空を眺めた。
相変わらず静かでいい空だ。
「お前よぉ、女でも作ったらどうだ? なんなら紹介してやろうか?」
「お前に女の知り合いがいるとは驚きだな」
「っは、じゃあ紹介してやらねーよ」
そういって昔の戦友はどこへともなく歩いていった。
どうせまた散歩だろう。
私もどこへともなく、歩き始めた。
 
季節はもう春になっていた。
桜の花びらの下で酒を飲む人や、歌を歌う人々。
それをただ眺めて歩いているのに飽きた私は、ふらふらとまた歩き始めた。
心の中の何かが、足りない気がするのだ。
なにか大事な、この前まで心の中心にあったもの。
それを探すように、私は歩き続けた。
私は驚いた。
桜が咲き誇る林道。その落ちている花びらのどれにも、踏まれた形跡はない。
私はそれを踏まないように、つま先でゆっくりと進んだ。
踏んではいけないような気がした。
静かに静かに歩みを進めていくうちに、つま先がしびれてきた。
そして、一瞬バランスを失い、体が傾いた。
やばい、と思ったが……。
がすっ、という鈍い音とともに、私は地面に転がった。
 
「あっ」
歌うような高い声。
私は顔を上げた。桜の花と思ったのは、その子の白とピンクのニット帽だった。
 
「転んだ」

何故か懐かしい声の主は、私に向かって微笑んだ。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
相変わらず長いのも引き継がれたようだ。
何の脈絡もないが、せっかく新しくなったんだから、小説でお世話になった人に挨拶。
 
バルクラウさん。心の師匠だ。これからもいい文章を頼む。
ネカマのてあさん。読んでいて『自分が楽しんでる』小説というのがわかって好きだ。
ユートゥさん。あなたのお陰で、私はこんなことを始めたんだったな。ありがとう。
グィネさん。あなたのレスは今でも心に残ってる。まだ駄文書きを続けているのはあなたのお陰かも知れん。
カフェチョコさん、黒法衣さん。題材にしてすまん(
 
なにはともあれ、新参含む掲示板の諸兄方、これからもよろしくお願い申し上げます。

たむけ屋 ヤらないか? 08/04/17 23:21
木刀狼 樽に来い。話はそれからだ。 08/04/18 18:01
未完成11 病院行って来い 08/04/18 00:45
木刀狼 すまん。一週間前に行ってきた。 08/04/18 18:01
昏夜 何故ココまでの長文が投稿できたのかが不思議でなりません 08/04/18 02:24
木刀狼 パターン①300文字なのはレスだけのようだぞ。 パターン②本当に申し訳ございませんでした。 いや、『倫理的な問題で責められている』のか『300文字以上』ということなのかわからなかったんだ。 08/04/18 18:04
ほてほて_ru ラストでじわっと来ました~;;ノガレラレナイウンメイ 木刀さんの文章、好きですよー。いつも楽しみに読ませていただいてます^^ 08/04/18 03:08
木刀狼 小説の感想を見て思った……。 あれ?ハッピーエンドとか思ってるの作者だけじゃね?( いやいやいいんだ表現力のなさとか変態な感受性とかもういいんだうん。 とりあえず今後どうなるかはあなたの心の中で綴ってみてくれ。 08/04/18 18:08
緑水 最初想像していた結末と全く違ったラストだったので何だか新鮮でした♪ 必ずしもハッピーエンドばかりじゃないところが現実っぽくていいなぁ…とか思ったり 次も楽しみにさせていただきます♪( ・ω・)b そして、最後にコレだけは…… 【運命は繰り返す】(マティ 08/04/18 11:28
木刀狼 実は『鎧の人=ガルツ…と思ったら自分』てのがやりたかっただけなんだ( そしてどうでもいいが、修正後すぐに小説スレがたっていたのに驚いたんだ……いや、自分個人で勝手に嬉しくなった。 なにはともあれありがとう。 08/04/18 18:10
almnt 私は自由だ イッチー ぐりふぃーーーす!!!!  カシャーン ガキーーン ガンッ シャキーン 08/04/18 22:15
木刀狼 はいはい落ち着け。 08/04/21 18:52
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カフェチョコ_tri 2008/04/17 1064

月を使った人の殺し方(小説)

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木刀狼 2008/04/17 2846

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フロイライン_rua 2008/04/17 4445

メインストリームバグ!(ややネタバレ)

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雪華狼 2008/04/17 6747

[返事] メインストリームバグ!(ややネタバレ)

+6
雪華狼 2008/04/17 3750

(  ・ω・)今日のUP内容

+43
ウィノア_mar 2008/04/17 8383

[返事] (  ・ω・)追加内容。

+2
ウィノア_mar 2008/04/17 1440

トップ変わったけど・・・重い

ゼクサス_mar 2008/04/17 1662

ファンアートとかSS板とかで

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兄王 2008/04/17 1879

入れん、、だれかしりとりいっしょにやってください

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アヒルマン 2008/04/17 2073

ショップの画像が

シニスター_cic 2008/04/17 2100

あれ~?

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ぷれるふ 2008/04/17 2094

クエスト記憶の鏡

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詩火 2008/04/17 2511

エンチャント等ではない魔法効果?

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ディーレア 2008/04/17 4603