自由掲示板

日常(小説
ダスキ 08/03/13 04:01

夜中、ふと目を覚ました。特に胸騒ぎがしたわけでも気配を感じたワケでもない。
することもないので、もう一度寝ようと毛布を被るが
(…寝むれねえ)
寝転がったり、うつ伏せになったり、軽く腕立てなんかもしたが一向に睡魔が訪れる気配はない。
(…顔でも洗うか)
ベットから下り、顔を洗うためにアデリア川へと向かう。
 
階段の壁に付けられた蝋燭台の微かな明かりを頼りに、慎重に階段を下りる。
カウンターに宿主であるピルアスはいないようだ。おそらく眠っているのだろう。
そのまま玄関から外へ出ようとした時、キッチンから僅かな物音が聞こえた。そぅっと入り口の影から覗いて見ると、チーズや肉を保存してある保冷庫を物色しているノラが見えた。
「…随分とデカいネズミだな」
そのまま後ろから声をかけると、ノラはビクッと身を強張らせる。
「んがっ…!ぅぐ…!!お、脅かさないでくださいよぅ。食べ物が変なトコ入ったじゃないですか~」
恨めしそうな目で見てくるノラに、すぐ傍にあったワインを渡してやる。キッチンに置いてあるもので私物じゃないんだが…まぁ、ノラが飲むんだし問題はないだろ。
「んぐ…んぐぐ…ッぷはぁ~。スッキリした」
「…そんなに飲んだら酔っ払うぞ」
「大丈夫です。で、レニさんはこんな夜中にどうしたんです?」
微妙に酒臭くなったノラから距離を置きつつ答える。
「いや…目が冴えちまってね。気分でも変えようかと思って川に顔でも洗いに行こうと思ったんだ」
「ふ~ん…そうなんえすか。うぃっく…」
微妙に呂律が回らなくなってきている。
「ど~せなら一緒にお酒でも飲みましぉぅよぅ。マルコぅムもぅぃま呼んでぅえ来ます、うっく、から~」
そう言って勢いよくワインを煽る。もうすぐビンは空になるだろう。
「やめとけって。夜中に酒臭いレディーが行っても引かれるだけだぞ」
「ぅえ~?つまんなぁーぅい。じゃぁレみさん飲もましょぅよぅ」
…もう既に会話が困難になりつつある。レミって誰だよ。
「いや…遠慮しとく。飲みたいならラサのトコ行けよ。流石に起きてるか分かんないけど」
「ぅー。つまんなーぃ。つまんなーうぃっく…」
「ほら、あんまり騒ぐとピルアスさんが起きちまうぞ。バレたら厄介だろうから部屋に帰りな」
つまらん飲めを繰り返すノラを半分無理やり部屋に送り返す。新しいワインのビンを持ってた気がするが…まぁ、大丈夫だろ。多分。
 
川に着き、顔を洗い終わる頃には薄らと日が上がりかけていた。
川沿いの破壊神の神殿からは今日も地鳴りのような鼾が聞こえる。そのまま口が裂けてしまえ。
(さて…)
頭がスッキリとしたところでやる事もなし、結局状況は変わってないわけだ。
「どーすっかなぁ…軽く散歩でもするかな…」
 
目的も何もなく歩き、村広場へとやってきた。石段へ腰掛け、ぼぅっとする。
「…平和だなー」
平和…本当に平和だ。
この世界に召喚されてからというもの、俺は剣を振るったことがなかった。
元いた世界は酷かったものだ。飢餓や貧困が多発し、盗賊や腐敗した王家や貴族は毎日のように暴れまわっていた。男は皆自衛のために帯剣し、女子供が一人で外に出たら八割がたは帰ってこない。殺人、強盗、窃盗、喧嘩…日常茶飯事だった。
「…本当に平和だ」
そういえば、俺はいつ帯剣するクセがなくなったっけ…。
そんな物思いに耽っていると、教会の方面から人影が見えた。こちらに近付いてくるようだ。
 
「あら、レニさん。おはようございます。随分とお早いんですね」
彼女はエンデリオン。この村にある小さな教会のシスターだ。
「あぁ、ちょっと眠れなくてね。それより、エンデリオンこそどうしたんだ?」
「私は週末の日課で、墓地にお花をお供えに行くんです」
そう言って彼女は手に持っている白い花束を持ち上げて見せた。
「へえ。でもなんでこんな朝早くから?」
そう訊ねると彼女は僅かに顔を曇らせた。
「近頃、野生動物や魔族の動きが活発になっているんです。前はお昼頃に行ってもよかったのですが…朝早くのほうが、魔族達の習性上安全ですし」
そういえば一昨日も俺と同じような冒険者が放牧地で怪我したって聞いたな…。
「そっか…。よし、暇だしご一緒させてもらおうかな」
そう言って俺は腰を上げる。
「いえ、そんな…。心配して頂くのは嬉しいのですが、態々送っていただくようなことでは…」
「いやぁ、本当に暇だしさ。あ、迷惑だったら止めるけど」
これで迷惑ですって言われたらショックだな。
「そうですか…わかりました。では、ご一緒にお願いします」
そう言って彼女は微笑んだ。
 
墓地に着いた頃には辺りは更に明るくなっていた。もうすぐ完全に朝日が昇るだろう。
エンデリオンは墓石の前に花をそっと置き、静かに跪くと目を閉じて祈りを捧げはじめた。
墓石は長い年月雨風に晒され続けたのだろう。あちこちが風化し、墓石に刻まれた文字は読めない。だが、複数の名前が彫ってあるであろうことは予想できた。
「・・・このお墓は特別なんです」
祈りを捧げながらエンデリオンが呟いた。
「このお墓は、この村から輩出された戦士や冒険者のお墓なんです。彼らはレニさんの様に導かれこの村にやってきました。…けど」
そう言って顔を上げる。
「…戦争に行って、彼等の殆どは遺体となってここに還って来ました。このお墓は、身寄りのない彼等の為に村で創ったお墓なんです」
朝特有の、静かで冷たい風が草木を揺らす。
「彼等は…平和の為に戦って、死んで逝きました。村人は彼等の犠牲に感謝して、平和を尊び、日々を暮らしていました。だけど、それは昔の話で…今では遠い記憶となっています」
俺は黙って話を聞いていた。
「私は神父様からよくお話を聞いていたので、こうやってお墓参りに来るんですが…今では、このお墓のことを知っている人さえ少ないでしょうね」
彼女は立ち上がり、こちらに振り返る。
「…最近、よくない予感がするんです。なんだか、この平和が壊れてしまう様な忘れ去られてしまう様な…そんな予感が」
そう言った彼女の瞳は不安に揺れていた。だが、やがて自嘲気味に笑うと
「あはは…私ったら何変なこと言ってるんでしょうね…。さぁ、もう帰りましょう。付き合って頂いたお礼に教会で朝食をご馳走しますから」
踵を返し、歩き出した彼女の背中に声を掛ける。
「続くさ」
「…え?」
彼女は立ち止まりこちらを振り向いた。
「この平和はきっと続くさ。願い続けて続かない平和なんて存在しない…。俺はそう思うよ」
そう…この世界は平和なのだから。ならば、その平和を望み続ける限り、永遠に平和は続くだろう。絶対に。
 
一度宿に帰って身支度をする、と言って広場でエンデリオンと別れた。
既に日は昇り、辺りは徐々に輪郭をハッキリとさせてくる。
ふとケイティンの店を見ると、煙突から煙が出ている。どうやら朝の仕込みをしているようだが、それにしては遅い。
(ははーん。さては寝坊したか)
今日の当番はエルティンだったか…。だとしたら従姉妹喧嘩が始まるのは間違いない。後で止めに行くついでにミルクを買おう。
「さー…てと。今日もお仕事頑張りますかー!」
一人気合を入れた。なんだか、今日はいつもより充実した一日になりそうだ。
 
追記
身支度をしに宿に戻った俺を出迎えたのは二日酔いで完全ダウンのノラと、キッチンを荒らされにこにこ顔で怒るピルアスの説教だった。
…俺は何もやってないのに。
                                         
                                     END    

レイウォン_mar http://www.yahoo.co.jp 08/03/15 16:45
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