|
木刀狼 |
08/02/16 13:06 |
諸君、私は木刀が大好きだ。
やっぱり小説なんだ。すまない。
しかも前の続きなんだ。すまない。
とりあえず前口上も何だし、早速載せてみる。
―――――――――――――――――――――――――――――
「ごめんなさい……もう落ち着いたから。」
「はぁ……。」
こっちも息が落ち着いた。ていうか息ができる。
空気とはこんなに美味しかったのか。
出来れば最初の発見は、もう少しいい方向で見つけたかった。
僕は深く息を吸い、ゆっくりと吐いた。
「それで……どう探しますかね?」
今更だけど、これは一番重要なことだ。
「そうね……」
ロザネはあごに手を当て、少し考え込んだ。
「わかんない。」
「ふぇ?」
「だから、わかんないの。」
「だから、何が?」
「捜し方よ。」
少しの間、僕の脳みそは停止した。
「捜すなら色々方法あるでしょう。え~と……人に聞いたり?」
「ああ、そうね。それがあったわ。何で気づかなかったのかしら……」
「……? つまり、今までそういうことしてなかったんですか?」
「ええ。」
なんなんだこの人は?
おそらくだけど、一番メジャーなやり方ではないのだろうか。
「なんだか、よく分かんなくなってきたんですけど……」
「えーと、今まで、自分の足でいろんな所を歩いて、捜し回ってたのよ。」
なんと手間のかかる。
そして、僕に微笑んで、
「正直、まだ会いたくなかったっていうのも多分ある。
久々に会うんだから……覚悟する期間が欲しかったのかな」
と、後ろ髪を軽く払った。
なんだか、よくわからない。
会いたい、なのに会いたくない。
相反する感情がやすやすと理解できるほど、僕は人間と生きていないのだ。
会いたいなら、会えばいいのに。
「――それじゃ、人に聞きましょう。」
「……そうね、そうしましょう。」
わからないなら、動くしかない。
いつか理解出来れば、と思ったけど、それはたぶんずっと向こうの事だと思う。
だから今は動こう。
ロザネについていけば、そして願いを叶えられれば、分かるかもしれない。
根拠はないけど、不思議とそう思った。
人々の活気、喧噪。
まだ昼前だと言うのに、露店がひしめき、会話が交錯し、たまに争いが起こる。
「本当に久々だわ、ここがダンバートン。」
「あわぁ……。」
「あわぁ?」
客引きの声や、服装、演奏、見るもの聞くものの全てに圧倒された。
「ほら、口。」
気づけば口が開きっぱなしだった。うわぁ、恥ずかしい。
「それじゃ、さっそく聞きましょうか。手当たり次第に聞けば、もしかしたら……。」
「そうね……。」
まだ気が進まないのだろうか。
「わたし、木陰で休んでていいかな?」
※ ※ ※
1時間が過ぎた。
陽が照りつける石畳は、さながら石のフライパンといったところか。
とりあえず見当たる人々にすべて声をかけてみたが、
「知らないわねぇ。悪いけど、他をあたってちょうだい。」
「……知らん。」
「ああ!? 何ぶつかってんだゴルァ!? 賠償金払ってもらうぞゴルァ!!」
こんな感じで、全然手掛かりが見つからなかった。
「うーん……ダメでした。」
「そう……ね。」
報告しても、ロザネは相変わらずうつむいたまま座っている。
「あのね。」
彼女が、ぼそっと呟いた。よく聞かなければ、低いうめき声に聞こえただろう。
「ずっと考えてたんだけど……」
「はい?」
「わたしね、君が気づいてくれて嬉しかったんだ。」
「へ?」
突然、そんなことを言われた。
暗闇の中でも光るような、奇麗な女性なのに、誰にも気づかれない?
ふと、周りを見回す。
「たぶんみんな、わたしに気づいていない。
たとえ声をかけても、肩を叩いても、殴りかかったって、きっと気付かない。気付けない。」
彼女は言った。たぶん、僕にだろう。
もしかしたら、僕以外の、事情とかがわかる人かもと思ってみたが、違うようだ。
わからない。
これが人の考え、なのだろうか。
周りが灰色になって、人々が歪んで、ぐるぐる回るような。
まるで、迷路になってしまったような、錯覚。
彼女は、少し声を大きくして、言った。
「もう、覚悟はできたわ。彼に謝る覚悟も。」
彼女は、ふわりと、微笑んだ。
そして、すうっと立ち上がり、まっすぐに、ある金髪の女性のところに向かう。
僕はあわてて、彼女の背中を追いかけた。
「この人。」
その金髪の女の人の前で、ロザネは立ち止まる。
涼やかな印象を受ける青い瞳が、僕を見た。
「見慣れない顔ね……。私はエヴァン。あなたは……冒険者?」
「え……あ、あの、ウェランって人、知りませんか?」
僕は名乗りもせず質問する。
「ん――そうね、知ってるわ。」
「ッ、本当ですか!?」
「ええ、前までよくここで依頼を受けたりしてた。」
なんだ、やっぱりいるのではないか。
「それで、彼はどこに――」
「……でも、彼はずいぶん前に死亡が確認されているわ。」
――え?
ロザネが、僕に近寄ってくる。
黒く沈んだ、紫の双眸。
白い肌が、まるで人形のような印象を与えた。
昼間の、石畳のフライパンの上。
「来て。本当のこと、教えてあげる。」
耳元で、冷たい風が囁いたようだった。
―――――――――――――――――――――――――――――
そんなわけで、まだ続くんだ。
感想でもくれたら歓喜するよ。