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ダスキ |
08/02/04 19:01 |
あの後、一人残された俺はバンホールまで馬を飛ばし、一人黙々と首輪作りに精を出していた。
カーン…カーン…
周りを見ると、辺りはカップルで一杯だった。どいつもこいつも幸せオーラというか…それっぽいオーラを放出している。
「…ケッ。どいつもこいつも色気づきやがってよー…こっちはよー…こんな日によー…パシリになってるって言うのによー…」
ブチブチと愚痴りながら、首輪の製作を続ける。
(うぅ…!バレンタインだっていうのに…俺に渡されたのはパシリの図面だよチクショー!なんだってこんな日に犬の首輪作んなきゃなんねーんだよっ!しかもこの図面やたら分かり辛いんだけど…!!)
カーン…カーン…
ハァ-と溜息を吐きながらも、必死で作業に打ち込む。そうやって辛さを忘れようとした。
(まぁ…頭冷やして…っていうか、普通に考えて、フレッタが俺にチョコなんてくれるハズない、か)
というか、バレンタインで舞い上がっていたから見落としていたが、あの作戦は相当無理があったような気がする。というか成功する要素がゼロだ。エンチャントランクFでトゲESを貼り付けるようなもんだ。アークリッチにタイマンを挑むようなもんだ。
カーン…カーン…
「チクショオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」
自分のアホさ加減に情けなくと同時に恥ずかしくなり、俺は思わず雄叫びを上げてしまった。…周囲の視線が一斉に集まり、皆がヒソヒソと話し始める。
「何あの人…」「失敗でもしたのかな…」「こんな日に鍛冶、ね」「お疲れ様お疲れ様…」「一人身はこれだから…」「あ、タイトルがラッキーボーイだ…」「こんな日に鍛冶やってる時点でラッキーないだろ…」「イージーモード?」「キモーイ」
ヒソヒソ…ヒソヒソ…
こいつら…黙ってりゃ好き勝手言いやがってぇぇぇぇええ…!!
手に持っているハンマーで全員叩きのめそうかと思ったが、すぐ近くにFHマスターのタイトルを付けている野郎がいたので止めておいた。無難に即死だ。
というか、そんなことをしたら自分が惨め過ぎる。
…なんだか、本気で泣けてきた…
鍛冶台に寄りかかり、グスグスと泣いていると、人が近寄ってくる気配がした。顔を上げると、ショーンがこちらに走ってくるのが見える。
「あの、大丈夫ですか?気分でも悪いんじゃ…」
心配そうに聞いてくる少年に、俺は笑顔を返す。
「ごめん、なんでもないんだ。ただ、ちょっと道に迷ってしまってね…。心配してくれてありがとうな」
なんて優しい少年だろう…。見たところ、この子は今日も働き詰めだ。疲れているだろうに、こんな俺を気遣ってくれるなんて…!あ、今度はうれしい涙が…
「そうですか…それならいいんですが…。あ、そうだ」
そう言って、ショーンは肩に掛けているバックをゴソゴソとやり始める。
「よかったら、これ食べて元気出してください。ハイ、どうぞ」
「あぁ、ありがとう。いただくよ…って、コレ…」
ホワットイズディス?(゜д゜
ディスイズチョコレィト(゜▽゜
「今日、女の人から沢山もらったんですが、食べ切れなくて…それに、僕にはイビーがいますから…」
あぁん?今何て言ったんだこのボーイは。
「あ、いけない…そろそろイビーと約束した時間だ…。それじゃ、僕はこれで失礼しますね!元気出して、頑張って下さい!」
そう言ってショーンは無垢な笑顔と共に走り去っていった。
…決定。ショーン、貴様は後日、五分刈りの刑だ。タイトルを野球少年にしてやる…。
ふふふ・・・この世界は敵だらけだ…あぁ敵だらけさ!
なんだかハイな気分になってきた。俺は薄ら笑いを浮かべながら作業を再開する。
カーン…カーン…
あぁ・・・答えろ女神モリアン。
楽園は何処にある。
-続-