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ルミナレイ |
08/02/02 20:07 |
ネタバレ度は10の内2くらいです。
無理やり最後に持っていった関係で、長いです。
それでも読んでやるって方はどうぞ。
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現れたのは……女の子。
そう、私と同い年か、それより下くらいの。
茶色の髪を肩の長さまで伸ばしていて、揉み上げの辺りを三つ編みにしていた。
「……ここで何をしているんですか?」
その女の子も、少し驚いた様子で、私を見つめている。
「あ、あの、わっ、私は、その、知り合いを探しにきててっ……」
緊張していた所為か、かなりどもってしまった。
「……ここは、貴方のような少女の来るところではありません。早く立ち去られた方がいいです」
「で、でも、入り口の像が壊れてて……って、貴方だって、見たところ私と大差ないようだけど?」
ようやく落ち着きを取り戻してきて、彼女の言ったことにムッとする余裕も出てきたみたい。
「私は……貴方達とは、違いますから……」
「え? どういうこと?」
私の質問に、彼女はしばらく沈黙し、また話し始めた。
「入り口の像でしたら、メガネをしたローブ姿の方が直していますよ。最下層からやってらしたみたいで、もうじき戻ってくると思いますよ」
どうやら、スチュアートさんがここにいることは間違いないみたい。
「そっか。ところで、貴方は…? あっ、私はアリサ!よろしくね」
「私は……トリアナと申します」
トリアナと名乗った少女の話し方は、驚くほど大人びていて、本当に私と同年代なのか、疑いたくなってしまうほどだった。
「トリアナか、可愛い名前ね。ところで、あなたこそ、ここで何をしてたの?」
トリアナは、なんだか迷ってるみたいだったけど、ゆっくりとしゃべり始めた。
「私も、人を……探しているんです。ずっと前から……」
トリアナの表情は、かわいらしい顔が台無しなくらい、悲しみに歪んでいた。
「大切な人なの……?」
トリアナは小さく頷いた。
「早く、見つかるといいね」
そういうと、彼女は顔を上げ、笑顔で答えた。
「……はいっ」
そんな笑顔を見ていると、なんだか私もうれしくなってくる。
二人で顔を見合わせ、微笑みあっていると、後ろから何かの気配が感じられた。
そこには、スチュアートさんが、驚愕の表情を浮かべて立っていた。
「アリサちゃん! そいつから離れるんだ!! 」
「えっ?」
そういっている間に、私は腕をつかまれて、グイッと引き寄せられていた。
「性懲りも無く、女神像を壊し、魔界から侵入してくるとは……よほど死にたいらしいな」
そう言い放ったスチュアートさんの目は、ゾッとするくらいの敵意に染まっていた。
「待ってよ! スチュアートさん、この子は……」
「こいつは魔族だよ、アリサちゃん。神聖なる女神像を壊し、僕たちの世界を脅かそうとする、ね」
私は、スチュアートさんの言っている事が理解できなかった。
「な、なに言ってるの? だって、この子はただ……」
そう言いかけていると、トリアナは静かに切り出す。
「女神像を壊したことは、謝ります。でも、私は貴方と戦う気はありません」
そういうと、トリアナは手を上へかざした。
すると、彼女の手から黒い光がはじけだし、全身を包み込んだ。
「逃がすかっ!! 」
スチュアートさんが、魔法を詠唱し始める。
「だめぇっ!! 」
気がつくと私は、スチュアートさんに飛びついていた。
そして、漆黒の光に包まれていた彼女に向かって
「トリアナの探してる人、絶対見つかるよ!! 見つかったら、一緒にパンを焼こう! その人のために!!」
力の限り叫んだ。喉が枯れちゃうくらいに。
光は瞬く間に小さくなり、消えていった。
私は、最後、トリアナが笑顔で応えてくれたような気がした。
帰り道、スチュアートさんは、さっきのことが嘘だったみたいに、いつものか弱そうな感じに戻っていた。
彼は、恐らく大変なことをしたのであろう私の頭を、何も言わず、やさしく撫でてくれた。
私は今まで、魔族っていうのは、感情なんか無くて、ただ恐ろしくて残忍な生き物なんだって思ってた。
でも、彼女が、本当に魔族だったっていうのなら、そんなことは無いんだと思う。
人間と魔族は、善意で通じ合える。
そのことに気付かせてくれた彼女に、私は感謝したい。
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ご清読、ありがとうございました。