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ネカマのてあ |
07/08/18 06:00 |
「な、な、でこん」
男の喉を刃が貫き、その叫びは途切れた
ずるり、と引き抜かれるきらめき。紅く濡れたそれは残酷なほどに美しかったが、刃を振るう手は酷く歪で醜かった
薄れ行く意識と噴出す己の血の中で、男は先ほど別れた吟遊詩人の詩を、思い出・・・
~ゴブリン侍~
相変わらずの酒場の喧騒の中で私はまったく出番のない商売道具のリュートをつまはじく。まったく世の中どうなっているのか。酒場といったら吟遊詩人。吟遊詩人といったら酒場。それがなんでこうまったくお呼びがかからないのか、どいつもこいつもお約束というものを理解していないんじゃないだろか、芸術を愛でるって心がないんだこの○○どもめ!
「おいおい、にいちゃん。ずいぶん荒れてるじゃねぇか」
ええ、もう、荒れもしますとも、メンテ中の厨房のごとく荒れすよ?だいたいこの世界、吟遊詩人推奨されてるんとちゃうんですかね?それがああた、いまじゃ脳筋のば・・・
あーもしかして聞こえてました?
「そりゃなぁ、そんだけ大声でくだまいてらな、なぁ?」
と、男は同じテーブルのおそらく仲間であろう連中に同意を求める。そろいもそろって重鎧を着込んだごつい連中で芸術なんてかけらも理解無さそうなみるからに脳、
「おぃおい、こっちはお前さんに一曲頼もうっていってんのにそりゃないだろ?」
皆様実に教養のあられる佇まい。私の詩は、あなた方のような知性あふれる方々のためにあるのですよ、これが
「極端なあんちゃんだな、まぁいい。今日は実入りがよくてな、流行のやつをひとつ頼むぜ」
男は私にゴールドを放った。飲み干したカップでそれを受け取り私は口上を始める
では、昨今噂の怪物の詩を。その怪物いささか変わった形(なり)をしているようで・・
~ゴブリン侍~
振り下ろしたメイスが黒いヒグマの頭部を消失させる。飛び散った肉片がメイスの主の幼い顔を汚した
「うし、しょぉりぃっと。んー、こいつはいい皮ですよぉ」
彼女は懐からナイフを取り出した。十代に入ったばかりにしか見えない彼女の細い腕が慣れた手つきでヒグマを裂いていく
「はう、熊狩りは見入りはいいんですけどちょっとよごれちゃうのがなんですね」
体の半分以上を血に塗らして彼女は苦笑する。上質の部分のみを切り取り、軽く水洗いをして油脂にくるんでから鞄にしまった。ヒグマの残骸のことはすでに頭から消えている
彼女は同じように皮を集めている仲間達に、狩を終えようと呼びかけるために周囲を見回した
と、その視界に入る影がひとつ
「?ゴブリン・・・ですよねぇ」
それは見知った怪物ではあった。ウルラ大陸でも北はティルコネイル、南はバンホールとほぼ全域に渡って確認できる存在である。しかし、ここセンマイ平原で見られる種ではないし、何より、目の前のゴブリンはいささか通常のそれとは装いを異にしていた
衣服を身に着ける習性のないゴブリンだが、それは東方風のゆったりとした衣装を身に着けいる。背にはゴブリン種があまり使用することのない両手剣を携え
「てって!ちょっと、あれって・・・『正宗』じゃ!?」
ゴブリンなどが持っているはずのない「お宝」だった
どんな偶然があってゴブリンの手に渡ったかは全く検討もつかないが、これは
「ちゃぁあんす、ってやつじゃないですかぁ?」
正宗は強力な武装ではあるが相手は所詮ゴブリン、倒すのに苦労するとも思えない
それよりも他のメンバーに見つかる前に仕留めてしまわねば・・・山分けなどという事になりかねないではないか
彼女は口元を歪め、メイスを構えた
その悲鳴は間違いなく仲間のものだった
「いまの!?」
一人集合しないメンバーを呼びに行こうと4人で話していた矢先のことだった
「向こうだ!行くヨ!!」
2HSをもった男が他の3人に先駆けて走る、慌てて残りのメンバーも後に続く
果たして彼らが見たものは、腹部に刀を突き立てられ、細かい痙攣を繰り返す少女と、刃を引き抜く一匹の風変わりなゴブリンだった
「な、なんで!?」
輝くワンドを持った青年が惨状に悲鳴をあげる。残りの三人のうち、男は両手剣を抜き放ちゴブリンへ向かって駆け、フルートショートソードを持った女性はアイスボルトの詠唱に入る。三人目の少年は弓に矢を番えた
ゴブリンは悠然と男が駆けて来るのを待っている
『ゴブリンだと思って油断したな、いや、もしかすると新種か?』
男はそう考えながら走り、目前に迫ったところで、女が詠唱え終ったアイスボルトをゴブリンに打ち込んだ。その着弾と同時に男が2HSを振り下ろす
必殺の連携。ゴブリン程度ならそれで両断されおわり・・・そのはずだった
しかし、「それ」は放たれたアイスボルトを下段から切り上げ、あろうことか消滅させ、さらに目の前を掠めた刃に数瞬身をすくませた男のその隙をつき、返す刃で切り捨てたのだった
「・・・・え?」
男はその一言を残して息絶える
誰もが動きを止めた
いや、「それ」だけは切捨てた男を掠める様にして弓を番える少年に向かって走った。少年は慌てて矢を放つが、勢いも狙いもついてない矢が「それ」に当たることは無かった
振り上げられた刀が少年へ振り下ろされようとするのを、女が剣を突き出しなんとか邪魔をする。飛び退る「それ」と少年の間にはいり女は壁をつくる
「詠唱!ファイーボールを!!あんたはあたしと一緒に奴を牽制!」
女が青年と少年に指示を飛ばす。青年は慌てて中級魔法ファイアーボールの詠唱にはいった
「それ」が女へと軽く刃を突き出す。誘いだと判断した彼女はフルートショートの根元から先に駆けて流すように避ける
案の定、刃を流されても「それ」が体制を崩すことは無かった。おそらく受けていれば、機を外され、体制を崩したのはこちらのほうだっただろう
しかしこれで期を得た。女は「それ」右方向へ回り込むように走り、自分にへとなるべく「それ」の意識を向けさせるようにしながら、少年の射線を開けた
「くらえっ!」
「それ」に向かって立て続けに放たれる五本の矢、必殺のアローリボルバーである
けれど矢は届くことなく、アイスボールと同じく、「それ」の振るう刃のふた振りで全て叩き落されたのだった
そして、「それ」は壁のない斜線を前進する
女は矢が外れた時のことを考えて動きはした、だが、それは目標が避けた場合で、まさか前進されるとは思ってもみなかった
女と青年の目の前で、腰の剣を抜こうとしながら少年は三人目の犠牲者となった
「ああああああああああ」
女が突進し「それ」へフルートショートを叩きつける、さしもの化け物も勢いに押されたのか剣を弾き、二歩ほど後退した
「まだなのっ!?」
「あ、あと少しですっ!」
このまま切り合えば間違いなく敗北をきっする。その確信が怒りを伴い青年へぶつけてしまう
そして怒りはあせりをよび、あせりは恐怖を呼び起こし、恐怖に怒り、あせり、短い時の中で永遠にも近い感情の波にのまれ、感情は剣に力を与えるも、反射的にふるわれるそれは所詮
「それ」に通用しうるわけもなく、女はついにその身に刃を受け入れる。そして聞こえる声。
「詠唱完了ですっ!やれますっ!!」
・・・おそいんだよ・・・女は消えかける意識でそうつぶやき、自分が宙をまっていることに気づいた
「がっ!?」
詠唱を終え標的にその力の全てを解き放とうとした矢先、青年の体に、何かがたたきつけられ、転倒する
ぶつかったのは半分になった仲間の女の体・・・死体
その目が自分を睨んでいる
「ひっ」
慌ててどけようとするが、ぬるぬるとしたもので手が滑って上手くいかない
はやくどけないとちくしょうはやくはやくあいつがくあいつなんでこんなおもいんだはんぶんのくせにはや
とす
そんな軽い音がして青年の体は女とともに大地へと縫い付けられていた
「っ」
青年の口から紅いものがこぼれる
ああ、そういえばぼくはこのひととつながりたかったんだなぁってなにかんがえてるんだぼ
「あっ」
ひねりを加えられて引き抜かれるその刃の傷みに苦痛とも快楽ともつかぬ吐息がもれて
青年の意識もまた途切れたのだった
~ゴブリン侍~
そして 彼のものたち 碧き地に臥し
獣に食まれ 円環に帰す
最後のフレーズを奏でて私は、詩をしめくくる
「・・・あー、なんだにいちゃん。ずいぶんと景気の悪い話しだなぁ、おい」
そうですか?そうかもしれませんねぇ
けど冒険者にとって一攫千金というのは夢なんじゃないでしょうか
「そりゃまぁ、そうだけどよ・・・ん?そういや噂っていってたなにいちゃん」
ええ、このゴブリン、どうも本当にいるらしいんですよ。まぁ、であった冒険者は皆今の話のような最後を迎えてるようですけど
私ははおどろおどろしい旋律を奏で演出する
「なんだなんだ、ふかしかよ。誰も彼も死んでるんじゃ、だれがその話をしたってんだ」
あら、お気づきになられましたか
「俺らもそんな馬鹿じゃねぇよ」
そうだそうだと、他の連中も一緒になって笑う。どうやらなかなかに気のいいお客のようだ
今話していたリーダー格の男とは別のこれまた、いかつい男がしかしと言う
「もしそんなゴブリンがでてきても俺たちなら、退治してやるけどな」
「ちげぇねえ、ゴブリンなんかに負けるとはといいたいが、そもそもなんでゴブリンなんだ、にいちゃん」
「だなぁ、もっと恐ろしげな化け物にしといたほうがいいと思うぜ?少しは真実味もでるってもんだ」
ですねぇ、でもゴブリンだからしょうがないんですよ。あたしは真実しか話さない主義なもので
強情な奴だ、と何故か彼らのつぼにはまったらしい
そのまま私は彼らの席に混ぜてもらい、お礼にと私も2,3ほかの曲を披露した
うむ、よい人たちだ、むさくてごついが。思うにそろいもそろってバナッシュというのが拍車をかけている
「だからお前さん、そういうことは聞こえないようにいっとけや」
・・・あれしゃべってました?おかしいなぁ
「まぁ、いいやのめのめ!」
それでは遠慮なく
・・・
・・・・・
それからしばらくして連中は酒場を後にした
どうも最後まで私の話を信用していなかったようだ
残念だ
パーティの全ては死んでいても、話を語ることは出来るのだ
なぜならその場には一部始終を見ていた第三者がいたからである
まぁ
私のことなのだが
~ゴブリン侍~
翌日、町をでてダンジョンへと向かう途中、男達は出会う
「正宗」をもった東方風の衣装に身を包んだゴブリンへ
そして男達は・・・
お わ り