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雲龍柳 |
07/06/30 05:56 |
ファンアートにオマケでSSを書いたんだが・・・長くなりすぎたので自重。
しかし、電子の藻屑と化すのはもったいないからコッチへ投稿。
読んで頂けたら感謝感激デス。
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『全パナッシャーに告ぐ』
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ここは『赤い髪の美女の楽園』ベアンルア・・・。
水の都イメンマハにある、高級クラブだ。
入り口より真正面のカウンターには、危なそうな男が一人と、重鎧に身を包んだ男が二人立っている。
二人組の男たちは、カウンター越しの危なそうな男・・・名をルーカスといい、バーテンダー兼このクラブのマスターである・・・に睨まれている事を一向に気にせず、先刻から熱っぽく語り合っている。
『我々エリンを守護する神聖な騎士、パラディンに必要なものはなんだと思ウ?兄弟ヨ』
「そ~ネ・・・先ず強くあるべし、肉体も精神も。ってトコだろ~ネェ、兄弟」
そう語る二人組みの男たちの表情は、冴え冴えとして、熱気に満ち溢れているのだろうが・・・
如何せん、クラブ内であるにもかかわらず、大型の兜を被っている為に全く見て取ることができない。
その兜は、イメンマハ屋外に数々設置してある大型のゴミバケツをひっくり返したようなまるで不恰好なもので、且つ、重量も相当なものであろう。
呼吸するたびにくぐもった音を響かせている。
『確かに、強くあることは何にもまして必要なことダロウ』
『だがな、兄弟。ソレだけでは完全な答えではないと思うのダ』
「じゃぁ・・・なんだろ~ネ、ウン。あ、ちょっとまってヨ?今考えるからサ」
口調のやや軽めなバケツ男は軽く返事をすると、それきり考え込んでしまったようだ。
流石に業を煮やしたか、重い口調のバケツ男はこう切り出す。
『昔どう思った?なぜパラディンになろうと思ったんダ?』
「どうもこうも・・・強そうだし、何よりもかっこいいからサー。やっぱもてそうジャン?」
重々しい口調のバケツ男は、さらに一層熱を増し、語る。
『カッコイイダロウ?そうだ。カッコイイんダ』
「で・・・ソレがどうしたのサ」
軽口のバケツも口から生まれたような軽やかさで素早く口を挟んでくるから非常にうっとおしいが、
重いバケツもまた一々間をおいて語る所為で、妙に話のテンポが悪い。
『如何に無敵のパラディンとはいえ、我等もまた人の子だ』
『この祝福された地、エリンを未来永劫守護してゆく為には、我等の命の時間は、非常に短い。残念ながら』
「あぁ、ワカッタ!だから、子供たちに憧れられる外見が必要だって事ネ、兄弟」
重いバケツは一息くぐもったため息をつく。
『まぁ・・・ソンナトコロダ。話が早いのは助かるが、もう少しその・・・人の気分ってm』
「ヘイヘイ、すんまへんナー兄弟」
カウンターから数歩離れた距離にあるステージの上の美女が物珍しそうに見ているのにも気付かず、なおも続ける。
『だが残念ながら、現状のパラディンでも格好いいことは格好いいのだが・・・我等としては何か物足りないと思わないかね、兄弟』
「何か足りないなんて、そんな軽い問題じゃないゼ、兄弟。大切なものが抜けているYO!」
『そこでダ、兄弟。貴様にだけでなく、全パナッシャーに声高に叫びたい!』
「おぉっ?!」
言うが早いか重々しい口調のパナッシュ男は、一足飛びでステージ上に駆け上がる。
『『全パナッシャーに告ぐッ!!』』
『『只今より、真の力を解放しパラディンへと変身した者は、ただ一人の例外もなく、頭部をパナッシュに付け替えることを義務付けるッ!!!』』
ステージ上の主であったはずの美しい赤い髪の女性は、ルビーの様な澄んだ瞳を可能な限り大きく見開き、今やステージの下へと転落している。
大胆に肩口の大きく開かれた衣装の所為もあるだろうか。
たおやかな腰つきで床に座り込むその艶姿は、とてつもなく情欲をそそられる。
パナッシュが大音響を発したその直後、カウンター越しの危なそうな男は、やや大柄な体格からは想像出来ないほど軽やかな身のこなしで、ステージに駆け寄る。
ステージといってもその高さは人のくるぶし程度で、妖艶なステージ下の美女には怪我の心配はなさそうだ。
ルーカスはその美女に一言大丈夫かと声をかけると、次いで二人のパナッシュに向き直り、叫ぶ。
「うるさい、静かにするんだ!」
「人の店で好き勝手暴れやがって・・・許さんぞ!小僧ども!」
ルーカスは、手に持っていた自慢のコレクションのクロスボウを構え、照準を定める・・・。
次の日、イメンマハの街には、穴だらけになったゴミバケツが2つ、いつの間にか増えていたという・・・・・・。
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