|
ユートゥ |
07/05/25 11:20 |
前回書き忘れましたが、この小説はフィクションです。実際の体験をもとに書いていますが、ありえない展開とかありますのでご了承ください。
-------------------------------------------------------------------
ムーンゲートでケオ島にやってきた僕は、ゴーレムに見つからないよう草陰に隠れながら、そろそろと足を速めた。
何度来てもこの島は神経を消耗する。あちこちにゴーレムがうじゃうじゃいるので無理もないと言えるが。
以前、無謀にもゴーレムに正面からぶつかり、半殺しにされたこともあって、ゴーレムには必要以上に過敏に反応するようになってしまった。一体しかいない時があっても、迂闊に手は出さない。そんなことをすれば、島中のゴーレムの標的にされてしまうだろう、という恐怖があった。ケオ島は狭い島だ。どこで騒ぎを起こしても、すぐに島中に知れ渡ってしまう。
ゴーレム達の目を何とか掻い潜り、目的地であるケオ島の地下に繋がる階段に辿り着いた。
階段を降り、地下室に入った。
ルンダダンジョンの女神の祭壇に似た、人工的に整備されたその部屋は、奥にたたずむ水の精霊アルの放つ、仄かな青白い光が、部屋の隅を流れる澄んだ水に反射して、どことなく幻想的な雰囲気を醸し出していた。
僕はそのアルの前に足を進めた。
アルは目を閉じ、静かに流れる水の音に耳を澄ましていたようだったが、人の気配を感じたのだろう、そっと目を開いた。
「こんにちは、アル。」
僕は先に挨拶をした。
アルは一瞬、僕が誰だか分からなくて戸惑ったようだったが、ややあって口を開いた。
「あなたは確か・・・・ユートゥさん?」
僕は肯いた。
「そ。久しぶり、元気にしてた?」
「ええ、あなたも以前とお変わりないようで何よりです。」
アルは静かに微笑んだ。
「ディアオーラも、お元気ですか?」
アルは僕ではなく、僕が腰に佩いているバスタードソードに向かって話しかけた。僕のことは曖昧にしか憶えてなくても、ディアのことははっきりと憶えていたらしい。
バスタードソードの鍔元が光り、そこからディアのヴィジョンが現れた。
「やっほー、アル。私は見ての通り、元気いっぱいだよww」
ディアは嬉々として答えた。
「そう、それは良かった。ユートゥさんに大切にしてもらっているみたいねw」
「ううん、全然そんなことないわよ。聞いてよ、ユートゥったら金がない、金がないって言って、最近たまにしか私にごはんくれないの。酷い契約者よね~。」
「う・・・・・・・・。」
事実を言われ、僕は気まずくなる。ディアはアルを向いて喋っているが、その言葉の矛先はしっかりと僕に向いている。
アルはそんな僕達二人を見て、おかしそうに笑った。
「でね、こないだだって私を使っておきながら、修理とかも全然してくれないの。いくら精霊武器が頑丈だっていっても、何回も何回も使用されれば刃が欠けたりするわよ。私によく頼るくせにその見返りはわずかなのよ。これは契約なんだから、もうちょっと気を使ってほしいわよ、まったく。」
ぐさぐさぐさ。ディアの言葉の一つ一つが僕の心に突き刺さる。面と向かって言われるよりなお効果的だった。
「まあ、ふふふ、ディアオーラ、あなたも結構苦労しているみたいね。」
「そうよ。ユートゥってばそういうところがいい加減なんだから。ね?ユートゥ?」
「え、あ、あう・・・・・・・。」
突然、話を振られ、僕は言葉に詰まる。
アルは、そんな僕をとりなすように言った。
「ふふ、でもディアオーラ、それでもあなたが‘‘元気いっぱい’’でいられるのは、ユートゥさんが傍にいてくれるからではないかしら?」
「へ?ま、まあそうね。・・・・・・・うん、契約する前と比べたら確かに、多少はましかな。話し相手ができたんだし。」
最初の台詞とその後の台詞の矛盾に気づいたディアが、取り繕うように言った。・・・・・・・こいつ、口から出任せで言ってたんじゃないだろうな?
ディアとアルは、その後しばらく僕を差し置いて、雑談に花を咲かせていた。やはり同じ精霊同士、人間の僕よりも気が合うのかも知れない。
「アル、実は今日来たのは、これが何だか教えてほしいからなんだ。」
二人の会話が一段落したのを見計らって、僕は本題を切り出した。
僕が差し出したのは、魔族通行証だった。ただし、どこの通行証かは分からない。普通は表面に、その通行証で行くことができるダンジョン名が書かれているのだが、この通行証にはそれがなかった。
「これは・・・・・・・・。」
アルはそれを手にとって、しばらく眺めていた。
「ルンダダンジョンで手に入れたものなんだけど、なんとも怪しげな通行証でさ。捨ててしまおうとも思ったんだけど、水の精霊である君なら何か分かるんじゃないかと思って・・・・・・。」
ふう、と悲しげな表情でアルが溜息をついた。そして幾分感情を抑えた声で言った。
「ユートゥさん。セイレーンをご存知ですか?」
「え?」
セイレーン?いきなり知らない単語が出てきたことで、僕は困惑した。
「いや、知らないけど・・・・・・。」
「そうですか。わかりました、ご説明しましょう。」
アルは静かに語りだした・・・・・・・・・・・・。