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井口亮 |
07/05/22 11:14 |
最近、結構、小説を乗っける人が多くなってきました。
というわけで、小説掲示板をコミュニティメニューに乗っけて貰えるように頑張ってみませう。
小説掲示板メニューにはアップ済みですが、誰しもが体験しているような、短編小説をお目汚しながら、こちらの方にもアップしたいと思います。
『短編小説 いつか、また』
ダンバートンの露店を眺めてると、時々、人間やってるのが嫌になることがある。
大量に並ぶ商品につけられた値札。それが別に悪い訳じゃあない。
値札に書かれた数字ってのが、どうにもね。
だって、そうだろ?
命かけてダンジョン入って、魔族との死闘を経て獲得したモノが数字で図られるんだ。
そこで感じたモノも結局、数字で図れるということが嫌なんだ。
でもね、一番嫌なのは、結局、自分もまた、自分で得たものに数字をつけて図ってるところが嫌なんだ。
でもしょうがないんだよなぁ。
そうでもしないと、飯喰ってけないから。
と、くだらないことを思いつつ、久しぶりにティルコネイルでアルバイトをしていた。
鎌で小麦を刈り、聖堂のシスターエンデリオンに渡す仕事だ。
彼女らはこれを生活の糧にするんだろうね。
そいで、対価として受け取れる祝福ポーションを俺が得る訳だ。
昔は、それを露店で売って商いをしたもんだ。
需要があるから沢山売れるのな?しかも結構いい値段で。
でも、結局、それが、他の冒険者の手に渡り、武器に祝福を施し、更なる闘争を生み出すと考えりゃ、直接的じゃなくて、間接的に俺やシスターエンデリオンがみんなを死地においやってるんじゃねえかと思ったりもする。
だけど、こうして、土いじりしてるときくらいはそんなことは考えたく無いモンだ。
隣で一生懸命に小麦刈ってる奴が居る。
粗末なシャツとスカート。
ソウルストリームの白い回廊を抜けて来て、まだ、そんなに日が経ってないんだろう。
「精が出るね」
「あ、こんにちわ」
適度に緊張したこの挨拶。そういや、俺も最初はこんな感じだったよな。
「聖堂のアルバイトかい?」
「ええ、祝福のポーションが結構なお金になるって友達から聞いたもんで」
「最近じゃ、ハンドクラフトで麺棒作るっていう方法もあるらしいけどね」
「ええ!そうなんですか?」
「まあ、色々やってみるのも楽しみ方の一つさ」
やべ、話してて手元が滑った。
だけど、彼女は好奇心に満ちた瞳でこちらを見ている。
「はじめたばかりでまだ、よくわからないんですよ」
はじめた、とはエリンでの生活を始めたばかりという意味だ。
「そうかい、じゃあ、色々と大変だろう」
「ええ」
俺は刈り取った小麦を一纏めにして鞄の中に差し込む。
長年、つきあってきた鞄でところどころほつれているが、買い換える気にはならない。
沢山の物を詰めて、そして、出してきた鞄だ。
そういや、これって、買って貰ったモンだっけ?
「ダンジョン回ってみたくてもちょっと怖くて……それで、それなりに準備してから行こうと思ってたんですよ」
「そりゃ、いい心がけだよ。何事もきちんと準備しないとうまくいかないからね」
「そうですよねぇ……」
彼女の目はまだ見ぬダンジョンへの期待で輝いている。
ああ……なんだか、懐かしいな。
「どれ、それなら、一緒に行ってみるかい?」
「ええ!いいんですか!私、まだ、ろくにオオカミとも戦えないんですけど……」
「なに、はじめはそんなモンだ。えーと、誰だったかな……俺の知ってる人が言ってた有名な格言がある」
「え?」
「『習うより、死んで覚えろ』だ」
死ぬ気で覚えろのことだろうとは思う。よくまあ、こんな言葉を吐けたものだと思う。
だが、今思えば、確かにそのとおりだった。
あの人が言った言葉を自分が吐いていることに苦笑が零れる。
「その前に、まず、仕事終わらせちまおう」
「あ、はい!」
パララが傾き始める前には、穴ぐらに入れそうだ。
冷たい風が通り抜ける。
鬱屈した雰囲気の暗がり、穴ぐらにしては綺麗に整えられた廊下。
コンスーヌの地下迷宮と違い、人やそれに準ずる者の手が加えられたダンジョン。
俺自身、あまりダンジョンに来ないことから鎧を着ることが少なくなってるが、こういったダンジョンで獣や魔族と殴り合うなら鉄でできた鎧の方がいいのだろうと思う。
フィールドワークが多ければ、気軽に地面に座れ、丈夫で、なおかつポケットやベルトがあって物を出しやすいウィス防衛軍の服あたりがちょうどいい。
ウィスさんは何を防衛する気で作ったのかよくわからないが、まあ、気にしないでおこう。使い勝手がいいから。
それは、そうとして、だ。
アルビの穴ぐらってのは、慣れた奴にとっては退屈なところだ。
だけど、彼女にとっては初めてなんだろう。
蜘蛛やコウモリ相手に無鉄砲に突っ込んでいく様はまるで昔の俺を見ているようだった。
「っく!」
がむしゃらに剣を振るう。
「相手を良く見る!初撃の後に一拍置けば敵が落ちる前に更に一撃入る!」
なーんて言っても、当然、すぐにできる訳が無い。
見本を見せてみてもまだタイミングがつかめずハタから見ればがむしゃらに剣を振るってるようにしか見えない。
部屋一つの魔物を掃討するだけでそうとうスタミナつかってやがる。
まあ、俺もそうだったから人のことは言えない。
「少し、休もうか?」
「はい!……ところで、これなんですか!?」
彼女はそういって白蜘蛛の落とした魔符を見せてくる。
彼女にとっては初めて見る物なんだろう。
「……キホールの連中が獣を操るのに使う魔符だ。これを介して獣を凶暴化させてるんだ」
「へえ」
「ダンカン村長のところに行けば換金できるよ」
「そうなんですか!」
祝福ポーションを売りまわるよりかは効率は悪いが。
というのは飲み込んでおく。何事も新しいことは楽しいからだ。
それを奪うのはちょいと、野暮かと思った。
休むはずが、あれこれと彼女は質問してくる。
それに答えるのもなんだか楽しく、気がつけば大分そこにいた。
「さて、そろそろ行こうか、そろそろ巨大赤蜘蛛の部屋だ」
「ええ!」
「……君一人で戦ってみるといい」
「ええ!?無理ですよ!」
「大丈夫だ。俺も初めてのときはそう思った」
そう、俺も初めてのときはそうされた。
あんときはびっくりしたな。
だってよ?扉開けたらあんだけでっかな蜘蛛が居るんだぜ?
勝てねえ!って驚くよな、普通。
彼女はどういう顔するんだろうな。楽しみだ。
きっと、あの人もこんな気持ちだったんだろうねぇ。
「う、うわわ!勝てませんよこんなのに!」
案の定、驚いてパニックになってーら。
「だーいじょうぶだいじょうぶ!落ち着いて相手の攻撃を防御して、そこからさっき教えたとおりに攻撃すればなんとかなるって!」
そう言う俺の声は軽い。
彼女がパニクってる間に、巨大赤蜘蛛は自分の住処に人間が入り込んだことを知っていきりたつ。
巨大な前足を振り上げ、彼女に向かってふるう。
彼女はなんとかそれをガードすると、剣を振るう。
縦にふるわれた剣が巨大赤蜘蛛の額を穿つ。堅い甲殻に覆われた蜘蛛の額から緑色の体液が吹き出し、蜘蛛は悲鳴を上げる。
間髪入れずに横への斬撃。それが蜘蛛の額を再度叩き、蜘蛛はたまらずのけぞった。
妖しく光る複眼が彼女をとらえる。
「わ、わ、わ!」
俺はヒーリングの魔法のため、集中する。
大きく息を吸い、止め、静かにはき出す。
意識を僅かに現世からずらし、ルーンを刻む。
自分の周りに淡く輝く光球がペンタグラムの頂点をかたどるかのように5つ浮かぶ。
彼女はガードするのが一瞬遅れ、蜘蛛のふるった前足に激しく殴打される。
ごろごろと石畳の上を転がり、柔らかな肌を無惨な擦り傷だらけにしてしまう。
「ガードが遅いよ!攻撃したらすぐカウンターかガード!タイミングは早すぎる方がいいくらいだ!」
「は、はい!」
そうアドバイスしながらも僕は彼女にヒールを飛ばす。
彼女と蜘蛛の格闘はその後もしばらく続く。
彼女が満身創痍になった蜘蛛が渾身の力を振り絞り前足を振るう蜘蛛に、斬撃を合わせる。
下から、上へ。
剣先が銀の閃光となって登り、蜘蛛は仰向けにひっくり返る。
蜘蛛が倒れる地響きを感じ、緊張したまま彼女はじっと蜘蛛の亡骸を見ていた。
「や、やった!?」
「お疲れ!」
俺は多分、満面の笑みで彼女を見ていたと思う。
「やりましたよ!ね!ね!私やれましたよ!うわはぁ!」
その後は何を話したかよく覚えていない。
エンチャントについてさらりと教えたり、アイスボルトを使ったカウンターについて教えたりもしたが、なにはともあれ、彼女は興奮しっぱなしだったんだ。
「何か買う物でもあるんですか?」
「うん、まあ、ちょっと」
気がつけば俺は彼女を連れて雑貨屋に来ていた。
何でこんなことやってるんでしょうね。
頼りなさそうな店員のマルコムはいつまで経ってもマルコム。だから、頼りない。
旅館のノラに好意を抱いているらしいが、これじゃあ、いつまでたっても実らないだろう。
ノラはあけすけだからね。うん、どっちかってーと俺の好みだ。
まあ、俺の好みは女性全般だから言っても仕方ないのだけど。
財布と鞄、そして、少しはまともな女性用の服を買うと俺は勘定を済ませた。
あきらかにバイトで稼げる量よりオーバーな値段だが、致し方あるまい。
「はい、これ」
「これは……?」
「鞄に財布……それと、服」
「いいんですか?」
「いいんだよ。何かと不便だろ」
無理矢理おしつけるような感じで渡してしまう。
「エリンでの生活は色々とできることも多いし、自分の楽しみ方ってのがある。だから、まあ、その、なんだ。色々とやってみて楽しんでみるといい」
彼女は感極まったかのように頭を下げる。
「ありがとうございます!」
「じゃ、そろそろ俺は行くとしよっかな」
なんだか、少し照れくさい。
ああ、そっか、あの人もこんな感じだったんだろうなぁ。
こういうのも悪くないかもしれない。
「あの……名前を」
「頭の上に書いてあるだろう?」
今頃、どこに居るんだろうな。元気でやってるといいけど。
去っていく人も居るからねぇ。
俺はそんなことを考えながら、今度はイリア大陸にでも行ってみようと思う。
確か、ケアンから船が出てるはずだ。
大陸移動なんて風情の無いことはあんまりしたくない。
たまにゃーのんびりと船に揺られて潮風に当たってみるのもいいか。
そういや、彼女の名前、覚えておくの忘れたよなぁ。
結構……可愛いかったんだけどなぁ。
まあ、いいか、いつか、また――
☆ 小説掲示板の方にもありますが、暫時、こちらの方に止めて置きたいと思う所存です。早期に小説掲示板がコミュニティメニューに復帰し、多くの方がファンタジーライフを表現し、また、多くの方がそのファンタジーライフに共感を得れられればと思います。
自由掲示板の皆様のお目汚しを覚悟の上、協力とご理解を賜れれば幸いと存じ上げます。