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Nobody |
06/08/21 00:11 |
前回から続いています。前作はこちら【http://www.mabinogi.jp/5th/3_free.asp?bbs_mode=view&depth=1&p_thread=30409998&num=30411&bc=10&list_mode=all&key=user_name&word=nobody&page=1】
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「さぁ、行くぜ人間の男。お前の心臓は、まだ動いているか?」
マルドゥークが槍を構え、後ろ足に力を貯めた瞬間。
フレデリックは、自分の脇から黒い何かが飛び出していくのを見た。
SIDE:Nameless/Rita
……まもらなくちゃ
フレデリックをなくしたくない
こんどは わたしが
ぜったい まもらなくちゃ…!
SIDE:Marduk Cruach
「な、に!?」
驚愕の声は、自分と目の前の人間、そのどちらから漏れたものだったのだろうか。
先ほどの男の攻撃と同じ、あるいはそれ以上の速度で、男の脇から黒い何かが飛んできた。
「――っ、ああああ!」
ギィィィィン!
鋼同士がぶつかり合った音がする。
反応できたのは奇跡に近い。男を警戒していたのが仇となり、その隙を付かれた形になった。
向かってくる黒い何かに夢中で槍を突き出すと、黒い影から伸びた二条の白い煌きが、それに絡み付いて勢いを緩めた。
黒い影と見えたのは、男の後ろにいた少女だった。ローブを脱ぎ捨て、無骨な黒い全身鎧の姿になっている。どうでもいいと思い、意識の外に置いたのが拙かったか。
「ふざけるなよ、クソガキ。邪魔すんだったらブチ殺すぞ!」
動きが止まった隙を突き、マルドゥークが槍を突き出すが、思いの外強かった少女の勢いに、マルドゥークの腕は軋みを感じていた。
軋んだ腕では先ほどのような鋭い突きは見舞えず、当然狙いも甘くなる。少女の頭目掛けて突き出した槍は、二本の大剣に遮られてその体には届かなかった。
「……今度は、私が相手」
ぼそりと呟かれた彼女の言葉。決して大きくもないそれは、剣戟の音にかき消されずに不思議とマルドゥークの耳の届いた。
「あんだと?」
二本の剣に挟まれた槍を引き戻し、今度は胴目掛けて薙ぎ払う。少女はそれを大剣で叩き落した。
先ほどとは違い、殺すつもりで放った渾身の薙ぎ払い。それをたかが人間の、しかも年端も行かない少女に叩き落された。
「貴様ぁああ!」
マルドゥークは即座に目の前の相手を叩き潰す事を決定、そのまま追撃に移った。石突をも利用した、刺穿と打撃の連続攻撃。槍の穂先と石突がいくつにも分かれて見えた。
少女も両手の大剣を打ち振るった。人の身の丈ほどもある大剣をまるでナイフのように軽々と振り回す。まさに縦横無尽、死角のない連打で槍の暴風に対峙する。
ギィン!ガン!ギン!ギィィンン!
鋼が鋼を食い合う音が響く。
マルドゥークの攻撃はまさに大嵐だ。三連の突きから全てを吹き散らすような薙ぎ払い。槍の射程に入った者に、容赦なく降り注ぐ破壊の嵐。自分の邪魔をする者を微塵も残さず打ち砕くとばかりに、鋼の大嵐は苛烈さを増した。
キィィィン!ギン!ギャリ!ギィン!
マルドゥークの2M近い巨躯から繰り出される猛撃。それに対して少女は、持つ武器こそ重量級であるとはいえ、その体は華奢の一言だ。これは攻撃しているのではなく、大剣に振り回されているのではないか…そんな錯覚さえ感じる。こんな少女では、大嵐の前に一秒と持たないだろう。
ガガン!ギィン!ゴン!ガァァン!
だが、それでも剣戟の響きは止まらない。一層その激しさを増し、互いが互いを食い合おうと迫る。
荒れ狂う大嵐は、誰であろうと止めることは出来ない。自然災害に対して人間に成す術がないように。
ガァァァン!ズシャ!ギィン!ギィン!
――では。その大嵐を真正面から斬って落とす、この少女(さざなみ)は何者なのだろうか。
マルドゥークを大嵐とするなら、少女の剣は寄せては返す波のようだ。二本という数の上では絶対有利な状況を完全に利用し、一撃の直後にまた一撃を潜ませる事で、マルドゥークの連打に応戦している。とはいえ、この少女に技術らしい技術はない。この攻撃も本能的に剣を振り回しているだけだ。だが、それ故に読み難い。一撃一撃がマルドゥークにも匹敵する速度と威力で繰り出されるのだ。恐らく無意識だろうが、少女は漣の連打でマルドゥークの大嵐に拮抗する。
更に脅威なのが、この少女の見かけとは裏腹の頑強さだった。マルドゥークの攻撃は今までに三度、少女に直撃している。鎧を紙のように貫き、岩を粉雪のように粉砕する彼の一撃を受けても、構わず反撃してくるのだ。先程の男でさえ体勢を崩したその一撃を受けようとも、少女は揺るぎさえしない。
(何者だ、コイツ。ただの女じゃないな。…あの男ほどの脅威は感じないが、何か不気味な物を感じる。そう、まるで喉元に刃を突きつけられた時のように)
>>cp6へ続きます