マビノギ

カリオン_mor

06/08/13 03:34

「･･････に依って我ここに汝等を召喚する。集え雷の精霊！」
　詠唱に伴いスタッフの先端に精霊が収束し、篝火以外の光が生み出される。集中を切らずに
「離れろカイゼル！」
　ペットに指示を出し、呪文の最後の部分を詠唱する。
「集いて我が敵を撃て！サービスだ喰らえ！サンダー！」
　ダンジョンの薄闇を雷の白光が照らし、轟音が響き渡る。
　照準を合わされた巨大赤クモは残る生命力全てを削られ、白煙を上げるだけの塊となった。
「よしよし。よく戦ったな。おかげでサンダーが撃てたぞ。」
　足元に駆け戻って来たハスキーの頭を、少年は両手で少し乱暴に撫で回す。
　撫でられるハスキーは目を細め、勢い良く尻尾を振っている。
「さて、宝を回収して次に行くか。魔法の粉は出てくれるかな？」
　しかし、部屋へ入った少年の予想は、大きく裏切られていた。　
「なんだこれ？」
　そこは本来、宝箱と女神モリアンの石像があるはずの部屋。
　しかし、今は下へと続く階段が口をあけているだけだった。
「もしかして、これが例の･･････」
　少年の脳裏に、友人から聞かされた噂が思い出された。



「オッス、テュール。」
　アルビダンジョンのロビーで友人に声をかけられ、少年は振り返る。
「もしかして今から通常か？」
「誰かと思えばザインか。そのつもりだけど、何か？」
　祭壇に落としかけたアイテムを持ち直し、テュールと呼ばれた少年が聞き返す。
「通常に行くなら気をつけろよ。例の噂が本当かはわからないけどな。」
「噂？何だそれ？」
「あれ？お前知らないの？結構有名なのに？」
「ああ、最近イメンマハ中心にダンジョン篭ってたからな。で、どんな噂？」
「それはな･･････」



　友人の話では、ボスの後の部屋に宝はなく、下への階段だけがあり、そのまま進んでいくと最後にとんでもない強さのモンスターがいるらしい。
　そして、そこへ行ったと言う人も、そこから帰って来た人も居ないらしい。
「正直、眉唾な噂と思ってたんだけど･･････」
　目の前に口をあける降り階段を見ながら少年、テュールは呟く。
「これは行くしかないよな。」
　同意を得ようとするかのように、ペットに目を向ける。
「ワン！」
　主の言葉を理解したのか、それだけを答えるカイゼル。
「よし、行くぞ！」
　そうして階段を下る一人と一匹。
　その姿が完全に消えると、開いていた入り口はまるで幻のようにかき消え、女神像が姿を現した。
　まるで何も無かったかのように･･････
 
 
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今月一日に載せたＳＳの続きです。
前回同様、好評、酷評ともに歓迎です。
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