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「Chat De Ruelleへようこそ!」 cp3
Nobody 06/08/09 20:06

前回から続いています。前作はこちらからお楽しみください
http://www.mabinogi.jp/5th/3_free.asp?bbs_mode=view&depth=0&p_thread=30235999&num=30236&bc=10&list_mode=all&key=user_name&word=nobody&page=1
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「リタ。君の名前はリタですか?」
「……うん。私はリタ」
 少女は頷いた。心なしか、口元が緩められているように見える。
「そう、いい名前ですね」
 フレデリックも少し笑い、そして

 剣を抜き放ち、少女へ向かって投げつけた。
 
 闇を裂く白光の矢。そう表現するのが適当だろうか。フレデリックの投げた剣は、目視が困難な速度で目標へと到達、狙い違わず貫いた。
「ギャア!」
 白光に貫かれた武器はその形状を残さず破壊され、その柄は持ち主の頭部を強襲する。死んではいないが、しばらくは立ち上がれないほどの打撃を与えられ、崩れ落ちる。床に倒れ、ぴくぴくと痙攣するそれを一瞥すると、いつの間にか辺りに現れ、迫る敵に焦燥を滲ませた視線を送る。
「リタ…」
 口の中で確かめるように言葉を転がす。そして、再び口を開いたときにはもう、その名前に対する迷いはない。
 
 
 
 
 
 
 
「リタ、部屋の隅に下がっていなさい!」
 
 自分の背後に迫ったサハギンがフレデリックの投剣で倒されるのを呆然と見ていたリタは、その言葉で我に返ったかのようにフレデリックのほうに駆けてきた。
 彼女を庇え、かつ巻き込まない位置にフレデリックも移動する。

 フレデリックは、盾を背中に回し、代わりにクレイモアを抜き放った。「斬る」ではなく「断つ」ために鍛えられた剣を、殺気を漲らせ襲いかかるサハギンに振り下ろす。

 サハギンが武器として持っていたハンマーの根元を叩き落し、返す刃で首筋に強烈な柄打ちを叩き込んだ。いくらサハギンとはいえど、人型である限り人体の縛りからは逃れられない。中枢神経の集中する脊椎に対する打撃と、脳を揺らす衝撃の二重奏に、悲鳴も上げずに昏倒した。

 (数は9、いやこれで8か。前に三匹、左に二匹、後ろに二匹。…柱の影にもう一匹)

 弓と剣を装備したサハギンが二匹、こちらへ迫る。フレデリックは思考時間中にチャージしておいたファイアボルトを、弓を持つ一匹に向かって放つ。
 
「ゥギャ!」
 
 水生生物は熱に弱いらしく、ファイアボルトが足元に炸裂した衝撃で後ろに吹き飛んだ。控えていた仲間を諸共にひっくり返る。
 ダメージはそれほどではないようだが、それで十分。一瞬でも1対1の空間を造り出せればいいのだから。
 
「はっ!」
 
 多数戦闘ならともかく、1対1でサハギンがフレデリックに勝てるはずもない。一撃必殺のために力を貯めていたサハギンは、逆に杭打ち機じみた回し蹴りを腹部に受け、壁を越えて水中に落ちる。
 それを確認する間もなく、吹き飛ばされていたサハギンソルジャーが、怒りの声を上げながら走り寄る。それに巻き込まれたノールと呼ばれる犬に似た魔物も一緒だ。

 一度魔物達へ向かいかけたフレデリックだが、側頭部方向に強い殺気を感じ、クレイモアでそれを打ち払った。
 カカカン! 軽い音を立てて、クレイモアがフレデリックを狙った矢を跳ね飛ばし、床の上に目標を貫き損ねた矢が転がった。横目でちらりと矢が飛んできた方向を見、サハギンレンジャーの持つ弓がこちらを狙っている事を知る。
 だが、その隙にすぐ目の前まで魔物に接近されてしまった。仕方無く、サハギンソルジャーの振り下ろしてきたカットラスに、ガントレットに覆われた拳を真横から叩きつけた。
 どんな名剣だろうと、刀剣というものは須く側面からの衝撃に弱い。どれほど鋭い刃を持っていても、真横から見ればただの鉄板だ。さすがに拳の一撃で折れるようなことはないものの、フレデリックに弾かれたカットラスは、別のベクトルを持ってその進行方向を変え――
 
「ギャア!」
 
 力を貯め、強力な一撃を放つために振りかぶっていたノールの腕に深く突き刺さった。
 ノールの喚き声と飛び散った血に顔をしかめながら、フレデリックは矢に狙われる場所を少しでも小さくするため、膝を付く。同時にクレイモアを肩の後ろに回し、まるで背中に目がついているかのように、迫るもう一匹の、サハギンソルジャーの肩を狙った一撃を受け止めた。
 
「………っ!」
 
 ギリギリと軋みながら、二つの刃はお互いを喰らいあった。持ち主の膂力はフレデリックの方が上回っている。だが不完全な体勢からか、その刃同士は完全に拮抗していた。
 サハギンソルジャーはスケルトンのように驚異的な膂力を持っているわけではない。ここに辿り着くまでにその事を学んだフレデリックは、敢てこの膠着状態に持ち込んだのだ。
 その隙を狙い、サハギンレンジャーが矢を放った。先程とは違い、クレイモアが封じられてしまっているためにフレデリックに打ち払う事が出来ない事を知っているのだろう。サハギンレンジャーの顔に、歪な笑みが浮かぶ。
 
「ふっ!」
 
 だが、それも甘い。今、フレデリックを囲む三体の魔物は完全に動きを止めてしまっている。
 フレデリックは拮抗していた力を意図的に緩め、クレイモアに喰らいついていたカットラスを床に滑り落とし、体勢を崩すサハギンソルジャーに、ウィンドミルの要領で足払いをかけた。
 ついでとばかりに痛みにもがくノールと、肉に食い込んだ刃を抜こうとしているサハギンソルジャーにも足払いをかける。迫る矢は、倒れこんだサハギンソルジャーの体が盾となり、フレデリックには届かない。
 
「プゥ~!」
 
 悔しそうに呻くサハギンレンジャーと、今度は自分が、突き刺さった矢のために痛みにもがく破目になったサハギンソルジャー。本来ならばここで追撃として刃を降らすべきなのだろうが、フレデリックは躊躇せずにウィンドミルの勢いを殺さず立ち上がり、素早く身を翻した。
 四隅にある支柱の一つにクレイモアを突き立て、それを足がかりに大きく跳躍する。軽く跳んだように見えて、その姿はモンスターたちの遥か上方…3メートルほどの距離にあった。
 
「北辺の霊峰に踊る雪白の氷姫(こおりひめ)…」
 
 上昇と同時にチェーンキャスティングを開始、アイスボルトの魔術を最大効率、かつ複数同時にチャージしていく。
 
「我が声を力とし、我が真名(マナ)を刃として…」
 
 サハギンレンジャーが慌てて矢を放つが、それはクレイモアが突き刺さった柱に傷をつけるだけに終わる。
 
「凍原の理を知らぬ放浪者に、終焉の楔を貫き穿て!」
 
 彼の体が跳躍の最大高度に達したとき、チャージも終わる。同時に体をくるりと反転させ、フレデリックの頭が下になる。床にいるモンスターへと伸ばされた彼の手には、50cmほどの
氷の筒が握られていた。
 
「アイス…ガトリング――――ッ!」
 
 両手で抱えた筒が唸りを上げ、無数の氷の礫を吐き出す。一寸先が氷片で霞むような連射の一発ずつが通常のアイスボルトに相当する威力を持つこの爆撃は、ノールとサハギンの四肢に狙いを限定し、凍てつかせた。
 
 ゴッ…ガガガガガガガガガガガガ!
 
 氷の銃撃――いや、吹雪の爆撃は止まらない。まるで弾丸で床を耕すように、リタの周囲を残した床全域に弾痕を刻み続ける。全ての魔物を蹴散らし、扉すらも破壊し…そして、フレデリックの着地と同時にその猛威は消えた。
 
 「点」ではなく「面」に対しての積層多重爆撃。「爆撃」でありながら、四肢に狙いを絞る事が出来る精密性。アイスボルトともアイススピアとも全く異なる攻撃の性質を持つこれに、フレデリックはアイスガトリングと名前を付けた。マナ一つのチャージの中に、さらに五つ分のチャージを内包し、その中にも更に五つのマナをチャージする。これを繰り返すことで超高密度にチャージされたマナは自身の形状すらも変容させる。通常ならば氷塊が詠唱者の周囲に浮遊するだけだが、アイスガトリングの詠唱ではマナが高密度すぎて自壊してしまう。そこで、マナ自身がその形状を氷の銃身へと変えるのだ。そして、蒼い銃身はフレデリックの意思をトリガーとして、内包する全てを吐き出し穿つ。

 人間による魔術でありながら、その威力は自然現象の域にある。極北のブリザードにすら匹敵するこれが直撃すれば、今頃ここに八つの歪な氷像が出来上がっていただろう。だが、そんな事をすれば確実に対象を葬ってしまうことになる。そのため、フレデリックはマナの収束率を意図的に弱めた。氷葬ではなく、氷縛となるように。致命傷となりにくい四肢を狙ったのもその為だ。

 意図的に弱められたとはいえ、その大魔術の威力は健在だ。霊素屈折機能…マナリフレクターを持たない彼らは、両手足を完全に氷結され、もがくことしか出来なかった。
 水生生物は氷に強く、ノールたちも丈夫な毛皮に守られている。そして、マナで作られた氷は長くても半時間ほどしか保たない。彼らが死ぬ事はないだろう。そう判断して、フレデリックは安堵のため息をついた。
 手の中の氷銃の重みが消え、辺りが再び静寂に包まれる。フレデリックはリタへと目をやり、投げてしまったバスタードソードを拾い上げながら彼女に近づく。
 その無事を確認すると、安心させるように微笑んだ。

「大丈夫ですか?」
「うん、わたしはへいき」
「そう、良かった。でも、ここから先は危険です。どのような道を通ってきたかは聞きませんが、引き返して街へ戻りなさい」

 フレデリックの言葉に、首をかしげるリタ。先ほどまでの幻想的な雰囲気は消え、代わりにきょとんとした空気が伝わってくる。

「…わかんない」
「わからない…? まさか、迷子ですか」
「きがついたらここにいた。骨がいっぱいでてきて、戦っているうちにここへ来ちゃった」
「このダンジョンへどうやって入ったのかもわかりませんか?」
「………」

 詳しい話を聞いても黙っているか首を傾げるだけ。恐怖でパニックにならないだけマシかもしれないが、これは困ったことになったとフレデリックは顎に手を当て考え込んだ。
 この子をここに置いていけばフレデリックの調査は捗るかもしれないが、彼にはそんなことは出来なかった。誰かを助けることこそ、彼がここに来た理由なのだから。
 
 
(…いや、そんなものは後付の言い訳だ。本当は私は、『リタ』を今度こそ救うことを望んでいるのかもしれない)
 
 後悔は錆付いた。懺悔もしつくした。許しなど端から求めていない。今はただ、自分の生きる理由が一欠片でも欲しかった。
 
 
 
 考えるたびに何か重いものが喉の奥から競り上がってきて、吐きそうになる。黒く暗い泥を胸の奥に封じ込め、目の前の少女を見据える。
 心なしか、少女の眼差しは暖かく見えた。
 
「ついて、来ますか?」
「うん」
 
 フレデリックの問いかけにリタは淀みなく答える。フレデリックは確認するようにゆっくり二度頷き、表情を引き締めた。
 改めて、と発した声は
 
「仕方ありませんね。とにかく―――」
「おぅおぅ。派手にやったもんだなぁ、オイ。轟音で目が覚めちまったぜ」
 
 戦いの愉悦を期待する、狂気じみた言葉に遮られた。
 

 
 
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シャトヤーン_tar 2006/08/10 6250

あ、削除された  RE:マホールサン

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葵心 2006/08/10 4985

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