マビノギ

カリオン_mor

06/08/01 23:55

ハァ･･････ハァ･･････ハァ･･････

　荒い息遣いがダンジョンの薄闇へと吸い込まれ、消えていく。
　発しているのはまだ若い、二十歳に満たないであろう少女だった。
「何で･･････何でこんなことに成るのよ･･････
　私はただ、エンチャント練習用のスクロールを取りに来ただけなのに･･････」
　走り続けたことによる肉体的な疲労に加え精神的疲労も有ってのことか、脇道の部屋へ入ると壁にもたれるようにして座り込む。
「もうイヤ！スクロールも要らないし、宝も要らない！こんなところ２度と来ない！もう帰る！」
　一息に叫んだところで慌てて口を押さえ、追ってくるものの気配を感じようとする。
「来て･･････無いよね？」
　彼女の独り言に答えるのは、静寂のみであった。
「そ、そうだよね。途中で違う道へアイテム投げておいたもんね。
　きっと向こうへ行ったよ･･････ね。」
　何の気配も感じないことに、ようやく安心できたのだろう。緊張にしていた体から力が抜ける。と、同時に

　グゥ～～～

　場違いな音が響く。
「あ～、そういえば何も食べてなかったっけ。確かまだパンが有ったよね。それとマナポーションも飲んでおかないと。」
　カバンから取り出し速やかに腹に収める。
　続いて地図を取り出し現在地を確認する。
「今ここに居て出口がこっちだから、このルートで行けば近いよね。うん、よし。」
　行動方針が決まったところで地図をしまい、もう一度周囲を確認してから移動を始める。


「あ～、も～！あと少しだってのに、何でこんなところに居るのよ！」
　逃げながら爆弾を取り出し
「最後の１個、喰らえ！」
　追ってくるモンスターに投げつける。
　激しい衝撃と爆音を背に受けながら、ひたすら出口を目指して走る。
「あと、少し！あの部屋、過ぎれば！」
　そして潜り抜けた先に広がる光景は、彼女の足を止めさせた。
「どう･･････して？」
　本来あるはずの、上のフロアに続く階段。
　しかし、そこには女神像が有るのみで、階段は影も形も無かった。
「ウソ･･････だよね？見えないだけで階段あるんだよね？」
　壁に手を伸ばすが、帰ってくるのは固い感触のみ。壁が幻ではないことの証明だった。
　振り向かずとも、後ろにモンスターが居るのはよく分かる。
「イヤ、イヤよ！まだ死にたくない！お願い！誰か、誰か助けに来て！誰か～～～！」


～～～～～～～～～～～～～～～～～～～


「なあ、アルビＤの噂聞いた？」
「聞いた、聞いた。巨大蜘蛛倒してもまだ続くってやつだろ？」
「そう、それ！聞いた話だと、こないだアルビに潜ってそれっきり姿を消した女の子が居るらしいよ。」
「それも噂だろ？本当にそんなのがあるなら、行ってみたいものだな。」
「本当にあるならな。」


　それはあくまでも噂でしかない。
　アルビＤの奥。いまだクリアしたものは居ない迷宮が続くという。
　そして、最奥にはとてつもないモンスターが居るといわれる。
　そこへ行ったと言う者も、そこから帰ってきたという者も、いまだ居ない。
　そんな噂が有る････････････
 
 
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少し前に書いたものです。
知り合いに読んでもらったところ、酷評は無かったので載せてみます。
好評でも、酷評でもコメントいただけたら幸いです。